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聖女候補5

各話表紙:嘘つき聖女 嘘つき聖女~

 各々少なからず反省しているようだ。

 絶望的とは言え、一ヶ月すれば解放されるとわかっていることが、取り乱さずに済む一因でもあるのだろう。

 そのとき、順行していた馬車が不意に止まった。

 なにごとかと、アシャンは荷台から身を乗り出し外の様子を観察する。

 馬車の前には、あちこち破れてみすぼらしい姿の一家が、地に膝を付き頭をこすりつけている。

 自分と近い境遇の彼らに、思わずアシャンは親近感を持つ。

「そんなところで、なにをしているんです。どうぞ頭をあげてください」

 馬車から降りたダリルが、見ているだけで哀れな家族の前に歩み寄る。

「お願いします……どうか、どうか、お慈悲を――!!」

 痩せこけた両親の腕には、生後間もない赤子が抱かれ、兄弟が後ろに立っている。

 そんな彼らの前にダリルはそっと跪く。

「……申し訳ありませんが、私は神殿に仕える身。神殿側として施しをすることはできません」

(なによ、冷たい男ね! あんな今にも倒れちゃいそうな人を目の前にして、平然とそんなこと言うなんて!)

 貧しさを知るアシャンは、彼らへの同情と共にダリルに対して幾らか怒りを覚えた。

 しかし、ダリルの話はそこで終わりではなかった。

「神殿としてはお役に立てませんが……私個人としてなら、わずかながらご支援させていただきましょう」

 ダリルは懐から財布をとりだすと、結構多額の金銭を両親に手渡したのだった。

 わずかと言ったが十分すぎるほどの金銭を手にした両親は、感動に打ち震えているようだ。

「あ……ありがとうございます! ありがとうございます、神官様!!」

 痩せこけた両親は熱い涙を流しながら、何度も何度もダリルに感謝の気持ちを伝えた。

 ダリルが査察官だと知らない彼らには、神官に見えたのだろう。

「礼には及びません。あなたがたに神のご加護があらんことを――」

 慈愛の瞳で両親を見つめたダリルは、彼らの頭に手のひらを置き祝福を与えた。

(……なんだ、意外といいとこあるじゃないの。あんな人形みたいに張り付いた冷たい笑顔じゃなくて、そういうやさしい笑い方もできたんじゃない)

 たった今、目の前で救われた家族が自分の家族と重なり、アシャンは目頭が熱くなった。

 ダリルとて好きでアシャンたちを首都に連行しているわけではない。

 それが査察官という彼の仕事だから、そうしているだけなのだ。

 改めてそれを理解したアシャンは、先程までダリルに対して抱いていた怒りが引いていくのを感じていた。

 

 そして、アシャンたち偽物の聖女たちが首都につくと、彼女たちの住む家に向けて神殿から手紙が送られた。

 ――これから一ヶ月間、神殿で預かるといった内容で。

 実際は聖女と偽った罪で投獄されるのだが。

 首都につき、神殿を少し通り過ぎた先で、アシャンたちは馬車から降りるように言われた。

 海岸沿いに大きな洞窟が見える。

「ついてきてください」

 温和な笑みを浮かべたダリルが、アシャンたちを先導して歩く。

 途中で逃げないように見張りがつき、アシャンたち五人は手首を縄で縛られている。

 乾いた砂浜を暫く進むと洞窟についた。

 中に入るとかなり広く、意外にも小奇麗でいくつかの牢に分かれており、そこに数人すでに入っていた。

 つまりアシャンたち以外にも邪な理由で聖女候補として名乗りを上げた娘たちがいたということだ。

 空の牢の前でピタリと立ち止まると、ダリルがこちらを振り返る。

「こちらが今日からあなたたちが過ごすところです。トイレもベッドもありますし食事もきちんと三食ついてます。では一ヶ月頑張ってください」

 ダリルが話す間に、一緒に来ていた兵士が牢の鍵を開け扉を開く。

 そして見張りの兵士が一人ずつ娘たちを牢に入れていった。

 最後にアシャンが入ると鍵が閉められた。

(ああ、とうとう牢に入ってしまった……そのうち出られるとわかっていても犯罪者になったみたいで嫌だわ……)

 アシャンが落ち込み俯くと、天井から雫が彼女の白いうなじに落ちた。

「ひぁん!」

 いきなり襲ってきた水滴の感触と冷たさに、あられもない声をあげてしまう。

 その声を聞いたダリルが、一瞬その場で立ち止まったかと思うと、何事もなかったかのように外へ出ていった。

 

 ――こうしてアシャンは、二十二歳にして初めて村の外に出て首都を訪れ、こともあろうに牢に入るという体験をしたのだった。

 

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嘘つき聖女~
~桜猫*日和~