★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

聖女候補

各話表紙:嘘つき聖女

 アタゴウル歴九百三十四年――クレセント神聖国内で邪教が蔓り、神殿ではその被害を少しでも減らすための布教活動の一環として、聖女が広く求められた。

 聖女とは国教としてクレセント教を各地に広める役目を負った女性のことだ。

 前提条件として、聖女は大なり小なり『癒やしの力』をその身に宿していなくてはならない。

   ‥……‥**◆**‥……‥

「よし、これでおわり!」

 最後の洗濯物を干し終えたアシャンは、澄んだ紫の瞳で天を仰いだ。

 芽吹いたばかりの新緑の香りが風に乗って流れ、彼女の緑がかった栗色の髪をさらりと揺らす。

 うしろはうなじが隠れるほどの長さで前下がりに長く、サイドの髪だけが胸に届く程度に長い。

 平均よりも少し大きめの胸に、引き締まったウエストといった中々に魅力的なラインの体の持ち主だ。手足はすらりと細長い。

 アシャンは辺境の村に住む、少し貧乏な乙女だ。頭につけているクローバーのリボンカチューシャは彼女のお手製だし、今着ている服も手作りだ。

 襟ぐりが少し開いていて腕を通す袖は肩からふっくらと膨らみ、二の腕あたりの袖口が緩やかなフレアになっている白の上着と、胸から腰までを包み込む茶色の手作りコルセット、水色のロングスカートに革の靴。

 すべてアシャンが作ったものだ。

 なぜ手作りかと言えば、買うより作ったほうが安上がりだからだ。

 なにしろアシャンは九人家族なのだ。両親と妹三人、弟三人、そして自分。

 ほぼ自給自足の生活で、山羊の乳を飲み、鶏を飼って卵や肉を得ていて、家の裏には畑がある。

 生計はヤギの乳や卵や野菜を市場で売って立てている。

 家族九人がなんとか暮らしていけるだけの収入を得るのがやっとだ。

 そんなわけで、物心つく頃にはアシャンは家族の服を手作りするようになっていた。

 もともと手先が器用な彼女はメキメキと上達し、普段着であれば一日あれば十分作り上げることができるほどになっていた。

「アシャンおねえちゃん、そろそろ広場にいくじかんだよ!」

 声のする方に目を向けると、五歳ほどの女の子がこちらに駆け寄ってくる。

 アシャンはその場にしゃがみ、幼い少女を待った。

「ニーナ、呼びに来てくれたのね。ありがとう」

 目の前に来た自分の妹の頬にキスをすると、ニーナはくすぐったそうに笑った。

「うん! これでおねえちゃんが、『せいじょ』にみとめられたら、たくさんお金がもらえるんでしょう?」

「ええ、そうよ。そしたら、ニーナが欲しいお菓子もいつでも買ってあげられるわ」
「わぁい! おねえちゃん、がんばってね!」
「もちろんよ! みんなのためにも絶対、聖女として認めてもらうんだから!」

 アシャンは希望に瞳をキラキラと輝かせる。

 なにしろ一度聖女として認められると、多額の報奨金が得られるのだ。

 その報奨金で家族に楽をさせたい、豊かな生活をさせてあげたいというのがアシャンの動機だ。

(家族みんなの暮らしが楽になって時間が増えたら、わたしも恋のひとつでもできるかもしれないし!)

 アシャンがそう思うのも仕方のないことだ。

 彼女は十歳になるまえから、母親ともう一人の母親のような立ち位置で弟や妹たちの面倒を見てきた。

 手のかかる子どもが一人でも大変なのに、それが六人ともなると恋愛にかまけている余裕などなかった。

 なにしろ、朝は早朝から洗濯で、九人分の衣服を手洗いしなくてはならない。

 それはもうすごい量だ。

 冬は水が冷たく、手がかじかんでうまく洗えないことも度々あった。

 一、二時間で済めばラッキーだというほかない。

 それだけ洗濯には手間がかかるのだ。

 洗った後は濡れた洗濯物を絞らなくてはならない。

 これがまた力仕事で、真冬であっても絞り終わる頃には汗ばむほどだ。

 洗濯が終われば、食事の準備と片づけを手伝い、市場に出す商品を荷車に積んで、子守りをして――とアシャンには、やることがたくさんあるのだ。

「よいしょっと」

 

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嘘つき聖女~
~桜猫*日和~