★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

悪霊憑きと浄化

各話表紙:嘘つき聖女

「おいしい……」

 アシャンは用意された夕食を口に運ぶ。家で食べているものより、牢の中の食事のほうが豪華で美味しい。

 ふわふわした白いパンなど生まれてから一度も食べたことがなかった。

 自分がいつも食べているパンは茶色くて少しぱさついている。

 飲み物はホットミルクだが、甘くて口に含むと幸せな気分になった。

 砂糖など高くてアシャンにはとても買えないものだった。

 だから、この甘いホットミルクは本当に美味しくて、家で待つ家族に一度飲ませてあげたいと思った。

(家で食べるより牢のほうが贅沢な物を食べられるなんて、なんだか皮肉だわ……)

 美味しさと切なさで複雑な心境になっていると、牢の前に見張りがやってきて鍵が開けられる。

「アシャン・マーテル、ダリルさまがお呼びです。こちらへ」
「え……?」

 アシャンが動揺すると同時に、ほかの娘たちにも緊張が走る。

 自分はなにか取り返しの付かないことをしてしまったのかと、アシャンは強い不安に心を支配された。

 外に出るのを躊躇していると、さらに見張りに促される。

「ダリルさまの部屋まで案内いたします、出てきてください」
「……っ、わかりました」

 不安で心が押し潰されそうだが、アシャンは重い足を引きずるようにして牢から出た。

 特に手足を拘束される様子もなく、アシャンは黙って見張りの後についていく。

 再び来たときの砂浜を逆方向に歩き、神殿までやってきた。

 神殿の入口には、すでにダリルが立っていた。

「来ましたね、アシャン・マーテル。私についてきてください」
「はい」

 相変わらず微笑んだ表情のダリルに言われ、彼の後をついていく。

 白い廊下を進むのは、アシャンとダリル以外にはおらず、二人の足音だけがカツカツと響く。

 長い廊下を何度か曲がり、とある部屋の前でダリルが立ち止まる。

 そのままドアノブを回して開けると、中へ入るように促され、アシャンは扉をくぐった。

 その部屋は執務室で、窓際に執務用の机が置かれ、その手前に四人がけのソファーセットが置いてある。

 アシャンが部屋の入口で気まずそうにしていると、ソファーに座るように言われた。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。あなたに危害を加えるつもりはありません」

 話しながらダリルも、アシャンの対面に座る。

「さ、査察官がわたしになんの用ですか? 投獄したのだからもう関係ないでしょう?」

 危害を加えるつもりはないと言われても、やはり警戒を解くわけにはいかず、アシャンは訝しげな視線をダリルに向ける。

「私もそう思っていたのですが……そうもいかない事情がありまして」
「そんなにこやかに言われても……」

 牢からここに来るまで、ダリルはずっと柔らかな笑みを浮かべたまま、その表情が崩れないのだ。

「あなたがただ聖女だと偽っただけならよかったのですが――」
「なんですか、もったいぶらないで早く言ってください」

 アシャンは意味のわからない不安から早く解放されたくて、ダリルにそう告げた。

「あなた、悪霊はご存知ですか?」
「え……っ」

 思いもよらぬ言葉がダリルの口から出てきて、アシャンは一瞬呆けてしまった。

「誠に残念ですが、あなたには悪霊が取り憑いているようです」

「は?」
(え、なに……? なに言ってるのこの人。わたしに悪霊が憑いてるって……)

 いきなり悪霊が憑いていると言われ、アシャンはすぐには理解できない。

「右肩、重苦しくありませんか?」
「え? ちっとも重くな……っ……あれ? ……うそ、……腕が……」

 必死に右腕を持ち上げようとするのに、手首に錘でもついているかのように重くて上がらないのだ。

「腕が上がらないのでしょう? 今ちょうど、あなたの肩に出てきてるんです」
「そんな! な、なんとかしてください!」

(ヤダヤダヤダ! 悪霊なんて冗談じゃないわっ! それに右手が上がらないと洗濯物も干しにくいし!)

 一気に背筋に悪寒が走り、少しずれたことを思いながら、アシャンはダリルにお願いした。

「ええ。私としてもそれは構わないのですが……ひとつ問題がありまして」
「問題ってなんですか?」

 一刻も早く悪霊を祓って欲しいアシャンは、逸る気持ちが抑えられず、テーブルに身を乗り出した。

「それがですね……」
「もうっ、早く言って!」

 少しもペースを乱すことなく自分の前に座るダリルが歯がゆくて、アシャンは彼の胸ぐらを掴んで服を引っ張った。

「せっかちですね。――子宮、です」

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嘘つき聖女~
~桜猫*日和~