★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

帰らずの森の賢者3

各話表紙:座学

「どういう神経してるんですかっ! 初めて家を訪れた者を全裸にするなんて!」

 へたりこんだあと、アンネリーゼは素早く旅行鞄から着替えを取り出し身につけたのだ。

 そして今、家の中で賢者の取った行為に対し怒っているのである。

 誰でも赤の他人に、いきなり裸にされれば怒りが沸くだろう。

「……うるさい。お前の胸がなさすぎるのが悪い。それに魔術師なんてのは外見と中身が一致しないことも多い連中だ。俺には自分を偽るやつの話に貸す耳はないんでな」

(な、なんて人……! 普通こういうときは先に無礼を詫びるものでしょう?)

 悪びれた様子もなく、長椅子にどっかと腰を落ちつけている賢者を見ていると、アンネリーゼは、さらに心の底から怒りがこみ上げてくる。

「ご高名な賢者さまだと聞いていましたが、こんなに無礼な方だとは思いませんでした」

 アンネリーゼはできるだけ穏やかに言ったつもりだが、わずかに怒りで声が震えてしまった。

 だが、目の前の賢者は美しい容貌からは想像もつかない、そっけない言葉を紡ぐ。

 アンネリーゼの怒りなど、気にも留めないらしい。

「ならこのまま帰るか? かまわんぞ、俺は。お前がいなくなれば余計な手間が省ける」
「な……っ」

 怒りのあまりアンネリーゼは言葉が出てこない。

 ぐっと握りしめた拳が小刻みに震える。

「もともと三次元には興味ないからな。人間よりは精霊たちと研究に打ち込んでいる方が気が楽だ」

 淡々と告げる賢者に怒りはあるが、アンネリーゼはそれを必死に抑え込みながら声を絞り出す。

「帰り、ません……魔法を使えるようになるまでは。賢者さまこそ追い返したいのなら一秒でも早く、わたしが魔法を使えるようにしてください」

「……なんだ、帰らんのか」

 少しだけ、意外だという様子で賢者はアンネリーゼを見つめる。

 まるでアンネリーゼが怒りに身をまかせ、ここを飛び出すのを期待していたかのような口ぶりだ。

「わたしにとって魔法はとても大切なものですから。わざわざ帰らずの森まで賢者さまに会いに来たんです。なにも得ず帰るわけにはいきません」

(――もう、魔法が使えないことで蔑まれるのは……嫌……)

「ほう、甘ったれのお嬢ちゃんかと思っていたが、意外と芯は強そうだな」

「魔法が使えるなら多少のリスクは背負う覚悟です……退学になるわけにはいきませんから――」

 怒りに高ぶっていたアンネリーゼの気持ちが、退学の二文字に冷めていく。

 自分はこの賢者と喧嘩をしに来たわけではない。むしろ協力を仰ぐ側なのだ。

 アンネリーゼは深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。

「賢者さま、どうかわたしに力を貸してください。もうほかに頼れる人はいないのです……賢者さまだけが頼みの綱です」

 そう、これはアンネリーゼにとって最後のチャンスなのだ。

 これまで、ただ手をこまねいていたわけではない。

 休みの日には首都で有名な魔術師の元へ赴き、その原因はなにかを探ろうとした。

 数年に渡り様々な魔術師の元を訪れたが、成果もなく頼るあてが減っていき今日という日が来てしまった。

 どの魔術師も知名度も実力もあり快諾してくれたが、なにをどうやってもアンネリーゼが魔法を使えるようになることはなかった。

 そして、アンネリーゼには時間的にも後がない。

 春には進級試験が行われ、それに実技でパスしなければ待っているのは退学の二文字だ。

「賢者さま、どうか……どうか……」

 思いつめた顔でアンネリーゼは身をかがめ床に膝をつき、土下座しようとした。

 だが、それは賢者の冷静な一声で止められる。

「安易に膝をつくな。お前には誇りがないのか? お前は竜の血を受け継ぐ誇り高いドラクール家の一員だろう。それに俺は人を跪かせる趣味はない」

「で、でも……」

 

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~桜猫*日和~