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帰らずの森の賢者

各話表紙:座学 無垢で落ちこぼれな~

「無事に辿りつけるんでしょうか……」

 行けども行けども景色は森の中でなんの変化もない。

 そんな状態が一時間ほど続き、アンネリーゼは不安になってきた。

(導きのコンパスがないと『帰らずの森』の賢者には会えないという話だったけど、これで納得がいったわ)

「あ、また光っています。御者さん、その先の分かれ道を右に行ってください」

 馬車の窓から頭だけひょっこりと出したアンネリーゼの言葉を聞いた御者が、手綱を捌き右の道に進む。

 このようなやり取りが十回ほど続いている。

 進む道の分岐点にさしかかると先導するようにコンパスが光り、進む方向を指し示すのだ。

「これは……」

 道すがらアンネリーゼはあることに気づいていた。

 森の奥へ進めば進むほど『魔素』――魔力の根源が粉雪のようにキラキラと宙を舞いはじめたのだ。

 森に入ったばかりのころは視界の端のきらめきは気のせいだろうと思っていた。

 なぜなら、魔素は魔力の強い場所でしか具現化しないからだ。

 よほど神聖な場所や物でなければ、魔素が視覚化することは滅多にない。

 魔術師学院の生徒であるアンネリーゼが、最も身近に感じ魔素を垣間見られるのは、使い魔を召喚したときくらいのものだ。

 そう、使い魔自体が魔素の塊なのである。

(ここは……帰らずの森という場所そのものが、魔素が豊かな土地なのね。こんなにはっきりと見えるなんて珍しい……)

 空中を舞う魔素をアンネリーゼの手が下からすくう。

 魔力を帯びた魔素は淡く発光し、雪のように溶けずしばらくアンネリーゼの白く柔らかな手のひらに留まったのち、春風に運ばれる綿毛のようにふたたび宙を舞う。

「とても綺麗……」

 そうしてアンネリーゼが宙を舞う魔素に視線を奪われている間に目的地に着いたらしく、馬車が止まった。

 外を確かめるために、馬車から降りたアンネリーゼの前には繊細な装飾がなされた鉄の門があった。

 その門が、こちらへ来いというように錆びついた音を立てて開く。

 門が開ききったとき、門の向こう側に白虎が鎮座していた。

「来たか。学院長から事前に話は聞いている。門をくぐるがいい」

 白虎から聞こえたのは艷やかな青年の声だ。

「……あなたは賢者さまの使い魔、なのですね」

 アンネリーゼの瞳には、このしなやかな体躯の白虎をとりまく魔素がはっきりと見える。

「そうだ。この会話は俺が使い魔を通じて行っている。お前は荷物とコンパスを持って早く来い」
「えっ、でも、それでは御者さんが道に迷ってしまいます!」

「いらぬ心配だ。そいつは魔法で森の入口までササッと飛ばしておいてやる」
「転移魔法……しかも、あんなに離れたところまで……」

 なにしろここまで来るのに一時間以上かかっている。

 近い距離なら難しくない魔法も、長距離となると一気に難易度が上がる。

 高度なほど複雑な術式や呪文を使わなくてはならないのだ。

(高難度な魔法をたやすく使うなんて、賢者さまって凄いのね……これなら、わたしが魔法を使えない原因もあっさりと突き止めてくれるかもしれない!)

「さっさと門をくぐれ。そろそろ閉めるぞ」
「は、はいっ!」

 賢者に急かされたアンネリーゼは、馬車から旅行鞄を取り出し慌てて門の中に駆け込んだ。

 それと同時に門が閉じ、そのまますうっと宙に溶け込むように消えてしまった。

 それから御者の眼前にまた道が現れ、力強い鈴の音が聞こえたかと思うと眩しい光に包まれる。

 ふたたび彼が靴底に地面の感触を感じ目を開くと、帰らずの森の入り口にいたのだった。

 

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無垢で落ちこぼれな~
~桜猫*日和~