★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

ノエリア

魔導王:各話表紙

「あら、卵がないわ。もらってこなきゃ」

 ノエリアは琥珀色の瞳を調理台から逸らすと、小さな編みかごを持って外へ出る。

 春初めの暖かな風が、彼女の見事なラズベリーのような深紅の髪をさらりと撫でた。

 絶世の美女というほどではないが、そこそこ整った魅力的な顔立ちの乙女だ。

 白の長袖ブラウスに、焦げ茶色の編み上げベスト、足首まである深緑のロングスカートを身につけ革靴を履いている。

 地面を覆う草は柔らかく、歩くたびにさくさく音を立てる。

 どこからか小鳥の囀りが聞こえる。

 この村は、クルミ村という。

 家も三十戸ほどしかない。

 周りを豊かな自然に囲まれた、のどかな……のどかすぎる片田舎の村だ。

 どれくらい田舎かというと、この国を数百年に渡り治め続けている王の顔を知らない。

 村の通り道にはしょっちゅう逃げ出した豚や牛がうろついているし、野生のリスは村人を恐れず肩に飛びのってくるほどだ。

 近所付き合いも盛んで、お互い足りないものを補い合う心優しい村人ばかりだ。

 子供の頃から見知った顔ばかりで皆とても仲良く暮らす。

 しかし、仲良しでもメリットばかりではない。

 知りすぎているために、余計な一言をもらいげんなりすることも、ままある。

 ノエリアは自宅から歩いて五分ほど先の、ラルドの家にやってきた。卵を貰うためだ。

「おはようー! ラルド、いる?」

 入り口の扉を軽く叩くと、間をおかずラルドが姿を現した。

 ラルドはノエリアの幼馴染で弟的存在だ。

 今年で二十二歳になり、ノエリアより二つ年下だ。

「おはよー、今朝も早いな。卵だったら鶏小屋から適当に持ってってくれよ」
「わかったわ。いつもありがと」
「おう」

 ラルドは眠そうな様子で、扉を閉めようとした。が、ノエリアがそれを遮った。

「ラルド、そういえば結婚が決まったって聞いたわよ?」
「なんだよ、もうバレたのか。さすがに耳が早いな」

「うふふ、わたしの情報網を舐めないでちょうだい。……おめでとうラルド。先を越されてちょっぴり悔しいけど、めいっぱい祝ってあげるから式には呼んでよねっ」

 弾むように言葉を述べ、ノエリアはラルドの胸を軽く拳で小突いた。

「そりゃ勿論、招待するさ! こうしてラーラと両思いになって結婚できるのもノエリアのお陰だしな。ほんと感謝してる」

「うんうん、お姉さんは嬉しいです。立派な父親におなり!」
「いや、それは気が早いだろ」
「なに言ってるのよー、子供なんてすぐにできちゃうわよ!」

 ノエリアはくすくすと笑う。しかし、次の瞬間真顔になってこう言う。

「世の中不公平よね。ラルドにさえお嫁さんができるのに、わたしが素敵な旦那さまに嫁いでいないなんて」

「なんというか、お前が結婚するイメージがまるでない」 
「なんですって?」

 冗談交じりに軽く睨むと、ラルドは「冗談だよ」と笑ってごまかした。

「それじゃあね」
「ああ」

 お互い笑顔で別れると、ノエリアはラルドの家の裏手にある鶏小屋へ移動する。

 近づくにつれ、鶏とひよこの声が聞こえてくる。

 鶏小屋の前まで来ると、ノエリアはそっと扉を開けて中に入る。

「みんなおはよう。今日も元気そうね。ちょっと卵を拝借しますよ~」

 鶏たちも慣れたもので、ノエリアが入ってこようが卵を取ろうがまったく気にしていない。

 前足で地面を掘りそこを突く。

 ひよこはぴよぴよ鳴きながらあちこち歩き回る。

(あー……鶏たちの鳴き声聞いてると和むわ。わたしもひよこになりたい)

 ありがたく卵を五つほどかごに入れると、鶏小屋から出て再び自宅に戻る。

「よし、パンケーキ作っちゃうぞ!」

 貰ってきた卵の入ったかごを調理台の上に置くと、その中から卵を二つ手に取る。 

 卵黄と卵白を別々にし、卵白の方は割り入れたボウルに水が入らないようにして冷たい水につけておく。

 卵黄の方は少量のミルク、生地を膨らませるふくらし粉、そして小麦粉を入れてよく混ぜる。

 次はメレンゲ作りだ。

 卵白を泡立て器で必死に手をフル回転して混ぜる。

 砂糖を三回に分けて入れ、固めのメレンゲに仕上げた。

 

↑読了ついでにポチッと(*´ω`*)桜猫にちゅ~るが贈られます。
↑読了ついでにポチッと(*´ω`*)桜猫にちゅ~るが贈られます。
贄の魔導王は~
~桜猫*日和~