★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

「好き」は魔法の呪文6

各話:表紙

 マリアの悲痛な表情を眺めながら、更に彼は続けて言った。

「オレの本気の好きは、そう簡単にひっくり返らないくらい重い。アンタを手放す気も、離れるつもりもない」

 穏やかな告白とともにやさしい温もりが唇に触れる。ちゅ、と控えめな音が立ち啄まれたのだとわかる。

「……気持ちは、嬉しいが……んぅ」

 もう一度唇を啄まれた。淡い心地よさにもっとしてほしくなってしまう。

 自分の意志とは裏腹に、マリアの瞳は焦れたようにミゲルを見上げる。

「もっとしてほしいなら、アンタの本心を聞かせて。まだ起きてもいないことで不安に駆られた言葉より、アンタの心の中心にある最もシンプルな言葉が聞きたい」

 この期に及んでもなかなか本音を言わないマリアを責めるでもなく、やさしげに自分を見つめてくるミゲルの瞳が、この世で最も美しい宝石のように見える。

(いや、宝石などよりもっと綺麗だ……見ているだけで胸が甘く切なく疼く)

 初めて会った頃は、どこか冷えた印象の緑に見えることが度々あった。

 だけどミゲルを知っていくにつれ、妙に安心できて心が温かくなることが増してきた。

 今では見つめられるだけで、愛おしさを感じる。

(――そうだ、私はこの瞳が、ミゲルのことが)

「好き……」
「やっと言いやがった……」

 待ちかねた言葉を聞くやいなや、ミゲルはマリアの背に腕を回しぎゅっと強く抱きしめた。

 よりお互いの体が密着し触れる範囲が広がった。

 服を通してもじんわりと伝わってくる、ミゲルの胸板や回された力強い腕の熱がマリアの胸を高鳴らせる。

 柑橘系の香水を好んでつけているのか、彼の熱くなった体からは仄かにシトラス系の香りがする。

(ミゲル自身と混じり合ったこの香りが、とても好き。ミゲルに抱きしめられる感触も、私を抱くことや思いを伝えるのに遠慮しないところも好き。出会ったときから私だけを見ている、一途なところも好き)

「ミゲル……」

 この身に宿る想いを認めたくなくて、目を背けてきたというのにこの男はそれを許さないばかりか、自分が先に告白することで退路まで断ってきた。

(こんなの、勝てるわけがない。完敗だと認めるしかない。私に好きだと言わせるなんて大した男だ。……いや、言わされたというのは、少し違う。ずっと胸の奥に秘めて、言いたくても言えなかった気持ちを、私が言えるように仕向けてくれたんだ――)

「好きだ」

 この言葉だけは言ってはならないと、ずっと封印してきたというのに、禁忌を犯したというのに、今、マリアの心を支配するのは恐怖や不安とは正反対のものだ。

(こんなにも私は、ミゲルに好きだと、伝えたがっていたんだな……)

 問題は山積みなはずなのに、重い枷が外れて心が浮き立つようだ。

 そっとミゲルを見つめれば、蕩けるような甘い笑みが返ってくる。

「やっと素直になったな。オレの可愛いご主人サマ?」
「……もう、どうなっても知らないからな」
「アンタとなら地獄の底まで堕ちてやるさ。期待してくれていいぜ。どうせ行くなら天国のほうがいいけどな」

 そう言って不敵な笑みを浮かべるミゲルがとても頼もしく思えて、マリアはこくりと頷いた。

 寝室の窓から眩しいくらいの日差しが差し込んでくる。

 白いレースのカーテンの模様が床に繊細な影を落とす。

 陽の光を受けてミゲルの亜麻色の髪が光の粒子を反射して、キラキラと白金のように煌めく。

 苔緑の瞳にも明るい色が入り水晶のように透き通って見える。

「綺麗だな」

 背中に回していた手で、そっと彼の髪に触れる。

 普段は淡く灰色がかった色素の薄い緑の瞳は、少し冷めた印象を与えるが、今ミゲルを見つめるマリアの瞳は、慈愛に満ちている。 

 

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吸血鬼と不良神父~
~桜猫*日和~