★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

自称婚約者の再来4

各話:表紙

「それは玩具を横取りされたからだろう。私が一族の血を引いてなくてもそう感じるのか?」
「まさか! 君がただの吸血鬼だったらここまで追っては来ないさ」

(やはりな)

 マリアは内心ほっとした。

 このサミュエルという男が用があるのは、あくまでもアストルティーアの血を引いているマリアであって、ただのマリア自身ではない。

 だから思わず口元に笑みが浮かんでしまった。

「これ以上の戦いも交渉も無駄だ。私は貴殿のものにはならない。どうやら私は帰る場所を見つけてしまったらしい」

 確信などない。

 だが、そう告げながら心の中に浮かんだのは、神父でありながら自分を助けたミゲルの姿だった。

「マリア、君の意思は重要じゃないんだよ。大人しく僕と来ればいい」

 サミュエルは再びマリアに襲い掛かる。

 鋭い爪で何箇所も刺すように攻撃が繰り出される。 

「貴殿にはわからないだろうな……」

 常人の目には捉えきれない速さの攻撃を、マリアは紙一重で躱していく。

 なぜかわからないが、彼の攻撃がわかりすぎるほどにはっきりと視えるのだ。

 だから、かわすことは造作もなかった。

「なぜだ、なぜ当たらない?」

 加速も使い最大限のスピードで攻撃を浴びせているのに掠りもしない。

 拳は空を切り、その分余計に体力が削がれていく。

「もう、やめろ」

 マリアの手がサミュエルの手首を捉えたそのときだった。

 いきなりマリアがバランスを崩したのは。そのまま濡れた石畳の上に倒れてしまう。

「なに!?」

 しまったと思ったがもう遅い。

 空いたほうの手をマリアの心臓めがけて、サミュエルが真っ直ぐに突き出してくる。

 首を撥ねられでもしない限り即死は免れるだろうが、大量出血により渇きの衝動が強くなり暴走してしまうかもしれない。

 心臓に迫る爪の刃を見つめながら、マリアはそんなことを考えていた。

「貰った!」

 サミュエルの歓喜の声と共に銃声が響いた。

 やられた、と思ったが中々痛みが襲ってこないことに気づくマリア。

 次いで聞こえたのはサミュエルの痛々しい無様な叫び声だった。

「ギャアアアアアァアアアァァ! イタイ! イタイィイ!」

 マリアを貫こうとした右手を押さえてサミュエルはその場でのたうち回っている。

 彼の美しい顔が醜く苦痛に歪む。

「オレのご主人サマをいじめんじゃねぇよ、色男」
「ギギギ、貴様ァ! イつの間に!」

 サミュエルのこめかみに銀の銃を突きつけて、にこりと笑ったのは傘を差した神父だった。

「……」

 とっさに言葉が出なかった。目の前に、ミゲルが居る。

 それだけでマリアの心はどくんと大きく震えた。それと同時にえもいわれぬ安心感に包まれる。

「もう一発食らいたいか? 大人しく立ち去るなら今回は、見逃してやるけど?」

 カチリ、とリボルバーのハンマーを引く。いつでも発射可能だといわんばかりだ。

「くっ、わ、わかった!」

 さすがに二対一、加えてこちらは手負いだ。

 形勢不利と判断したサミュエルは地を這うようにして、その場から逃げ去った。

 そして初めて食らった銀弾が予想外に痛かったのだろう。

「ははっ、色男もああなると形無しだ。大丈夫か、マリア」
「ああ、平気だ」

 立ち上がろうとして違和感を感じて足元を見れば、ロングブーツのヒール部分がぽっくりと折れていた。

(だからバランスを崩したのか。ミゲルが来てくれなかったら危なかったな……)

「それにしても銀弾の威力は凄まじいな。たった一発撃ち込まれただけで、あのサミュエルがあそこまで取り乱すとは……」

「まあな。吸血鬼にとっちゃ銀で傷つけられた怪我は治りが遅かったり、治らなかったりするみたいだし。オレからすりゃ、無駄に撃たせんなって話よ。それなりにお高いんだから」

「そうか」
(まったく、こいつと来たら緊張感がないというか……ふふ)

 マリアの中で張り詰めていた心がふわりと軽くなる。

「また濡れちまったな……顔殴られたのか? 血が出てる」
「いや、顔は殴られていない。それより、よく私の居場所がわかったな」

 口元の血をハンカチで拭われながら、マリアは少しこそばゆい気持ちになる。 

↑読了ついでにポチッと(*´ω`*)桜猫にちゅ~るが贈られます。
↑読了ついでにポチッと(*´ω`*)桜猫にちゅ~るが贈られます。
吸血鬼と不良神父~
~桜猫*日和~