★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

自称婚約者の再来3

各話:表紙

 上品とは言いがたい言葉を思わず吐きながら、倒れざま体を捻り片手をバネ代わりにして弾みをつけ横に飛び避ける。

 雨で濡れた屋根は予想以上に滑りやすく、マリアもサミュエル同様爪を刃と化し屋根に突き刺すことで滑り止めの代用とした。

 お陰でこの家の屋根は大きな凹みと長い爪痕が刻まれてしまった。

 だが幸いなことに、この家は空き家だった。

「……」
(ああ、こんなに派手に破壊してしまった。ミゲルになんて言われるか……)

 戦いの最中にもかかわらずマリアはそんなことをつい考えてしまった。

 そしてそれが一瞬の隙を作ってしまった。

 そのわずかな思考の間に、サミュエルの次の手が迫っていたのだ。

 体の左側に重い衝撃を感じたかと思うと、マリアの体は勢いよく吹き飛び、濡れた路地へ叩きつけられた。

「――っ」

 痛みに声が喉で詰まる。強烈な蹴りを叩き込まれたのだと理解した。

 なんとか息を整え体勢を立て直そうとすると、すぐそこにサミュエルがいて振り上げた爪先がマリアの腹部にめり込む。

 呻き声が喉から漏れ、マリアはそのまま後ろへ蹴り飛ばされてしまった。

 その弾みで口の中を切ったのか、口の端から血が垂れている。

「……っ、う……」

 必死に呼吸しようとして、はあはあと肩が大きく上下する。

 しかし呼吸をするたびに蹴られた部分がじくじくと痛みを訴えてくる。

 回復能力はあるが痛みを感じないわけではないのだ。

「手荒くしてごめんね? でも君がいけないんだよ。大人しく僕のものにならないから」

 その言葉とは裏腹にサミュエルは楽しそうに、歪んだ笑みをその口元に湛えている。

 弱った獲物をいたぶるのが楽しくて仕方がないといった様子で、蹲るマリアにゆっくりと一歩、また一歩と近づいてくる。

 刃と化した爪をシャリシャリと弄びながら。

「……」

 マリアは彼が近づくのを待ちながら機会を窺っていた。そして時は訪れた。

 ――血よ、刃となって敵を撃て。

 呪文など必要としない、ただそう念じるだけで、彼女の体から溢れた血液が数多の刃となりサミュエルに襲い掛かる。

 それを素早く察知したサミュエルは加速を使い躱していく。

 しかし、全て躱すことは適わず手足に数箇所傷を負った。

 その間にマリアは呼吸を整え立ち上がると、口の中に溜まった血を吐き出した。

「貴殿のような乱暴者の妻になる女は大変だな。あまりにも酷くて同情を禁じえない」

「君にはあまりジョークのセンスが無いようだ。……まだ覚醒もしていないのに、もう血を自在に操れるのか。ますます僕のものにしたくなってきたよ」

 サミュエルは微笑んだ。

 しかしその笑みがあまりにも純粋で、逆に違和感を覚えるほど異様に見えた。

「貴殿の冗談も面白くないが。誰のものになるかは私が決める」

「いいや、僕のものにする。君は素晴らしい才能の持ち主だとわかったからね。アストルティーアの一族は代々己の血を自在に操る特殊能力があるけど、覚醒前からそれができたのは、長となりうる実力の持ち主だけだ」

 良い物を見つけたとばかりにサミュエルの瞳が細められる。

「私は長などに興味は無い。それを言うなら兄上だってそうだ。次期当主としてすでに動いているのは承知のはずだ」

「そうだね。だが彼は男だ。僕が欲しいのはアストルティーアの血を引く傀儡だ」
「……我が一族を愚弄するか」

(なにが傀儡だ。ふざけるな! 真の強さも、誇りも、慈悲も持たぬ貴様に我が一族をどうこう出来ると思うな!)

 怒りにマリアの体が熱くなる。

 握り締めた拳が小さく震えた。

「愚弄だなんて。有効利用といって欲しいな。それに僕はちゃんと君のことが好きだよ」

「……貴殿が私に対して持っているのは、好意ではない」
(だって一度も胸が震えたことがない。ミゲルと居るときのようには――)

「そんなことはないさ。君があの神父に良いようにされてるのかと思うと殺してやりたくなる」

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吸血鬼と不良神父~
~桜猫*日和~