★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

自称婚約者の再来1

各話:表紙

(さて、なにをして過ごそうか。ミゲルはそう遅くならないうちに戻ってくるだろうし)

 なんとはなしに、マリアの視線はベッドで眠るバートに注がれる。

 よほど疲れていたのかとてもよく眠っている。

 ちょっとやそっとの物音では起きないだろう。

 マリアは幼い少年の栗色の髪を、気遣うように優しく撫でている。

 雨は未だ降り続き遠雷が耳に届く。

 ふと窓の外を眺めたとき、稲妻がカッと閃光を放った。

 次の瞬間、マリアは表情を無くした。

 一瞬光った窓の外に、今一番会いたくない人物の姿を見つけてしまったからだ。

 マリアがミゲルと共に居なくては、生きていけなくさせた相手だ。

「サミュエル……」

 抑揚すら感じられぬ声で彼女はその名を呟いた。

 名を呼ばれた青年――サミュエルは挑発するかのような笑みを浮かべ、さっと身を翻し夜の雨の中へ歩いていく。

 わざわざ姿を表したばかりか、加速を使わないのはマリアを誘い出すためだろう。

「上等だ」

 短く吐き捨てるように言うと、マリアは部屋を飛び出し、サミュエルのあとを追いかけていく。

(しまった、傘をもってくるんだった)

 部屋を出てから気付くがもう遅い。

 マリアは濡れながらサミュエルを追う。

 その彼も傘は差していなかった。

 十分程歩いていると、昼間悪漢からバートを助けたのと似たような路地に出た。

 辺りには人の気配はなく、しんと静まり返り雨の音だけが響いている。

「久しぶりだね、マリア。元気にしていたかい?」
「なんの用だ。わざわざ誘い出すような真似をして」

 警戒を解かずマリアはサミュエルを見据えている。

「味気ないなぁ。婚約者との再会だというのに、もう少し喜んでくれてもいいんじゃないかな」
「ふん、笑えぬ冗談だな」

「僕はずっと君に会う日を心待ちにしていたんだよ。そろそろ契約が切れた頃じゃないかと思ってね」

「なに?」
(この忌わしい契約魔法には期限があったのか!)

 内心ほっとすると同時に、彼女は少しばかりの寂しさを覚えた。

「個人差があるようだけど、大体の効力は二ヶ月かそこららしいよ。どう?」

 知りたくてたまらないと言った様子でサミュエルは催促する。

「契約が切れたように見えるのか? あいにくとまだ持続している」
(だがそれを知ったとて、貴殿の取る手段は変わらないのだろう?)

 心の中で悪態をついてしまうマリアだ。

 アストルティーアの地を離れ、人間の領土で暮らす羽目になったのは元はといえばこの青年のせいだからだ。

「そうか、それは不便だね。そして腹立たしいよ、君があの神父に精を注がれていると思うと」
「どの口が言うか。全ての元凶は貴殿の愚かな行為のせいだ」

(まったく。自分のことは棚に上げてなにをいけしゃあしゃあと。正々堂々と私と向き合わず、姑息な手段を弄したことは無礼極まりない。誇り高い者の取る行動ではなかった。貴殿のその身勝手な行動が、貴殿に失望し嫌な相手だと私の心に刻ませたのだ)

「違うね。君が大人しく僕の婚約者に収まらないから、こういう面倒なことになってしまったんだ」
「くだらん。私の信用を勝ち取ることも出来ぬくせに……まったくくだらない」

 思わずサミュエルの横っ面を張っ倒したくなり、マリアは拳をぎゅっと握り締めることでなんとか堪えた。

「マリア、聞き分けの悪い子は嫌いだな。良いから大人しく僕のものになってよ、ね?」

「貴殿こそ口を慎め。誇りあるアストルティーアの血を引く私に下手なことをすれば、周りが黙っていないぞ」

「へえ、周りねぇ。……君の兄がいない今、特に怖いものなどない。なぜ僕をそんなに拒む? あの神父に抱かれて情でもわいたのかな……薄汚い教会の犬の分際で」

 自分の非を認めないどころか、ミゲルのことを悪く言われ、マリアの中でふつふつと怒りが沸きあがってくる。

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吸血鬼と不良神父~
~桜猫*日和~