★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

マリアの王子様2

各話:表紙

 しばしミゲルを鑑賞していたマリアも紅茶を口にし、その美味しさにふっと表情がほころぶ。

 共に用意してあったザッハトルテをつまみつつ、穏やかな時間が流れていく。

 カップが空になるとマリアは神妙な顔つきになる。

 彼女がミゲルと共にアストルティーアに戻ってきたのは、単に離れたくないという理由からだけではない。

 マリアがミゲルをここへ呼んだのは、彼の誤解を解くためでもあった。

 それはミゲルのトラウマに大きく関わる、母親の死だ。

(ミゲルは今更知りたいとは思わないかもしれない。だけど私は、真実を知ってほしい)

 意を決してマリアは口を開く。

「ミゲル……話したいことがある」
「だろうな。ここに来るまでの間、アンタはそわそわとしていつもの落ち着きがなかった」
「お見通しか。なら話は早い。……ミゲルの母君のことだ。聞いてくれるだろうか?」

 マリアは真っ直ぐにミゲルを見つめる。

 するとミゲルもその視線を受け止める。

 マリアが本気なのだとひしひしと伝わってくる。

「いいぜ、アンタの話を聞かせてもらおうか」

「結論から言うと、確かに母君の命を奪う一因となったのは、兄上が血を吸ったからに他ならない。だけどそれには事情があったんだ」

 話を聞きはじめたミゲルは、椅子に凭れていたが座り直し、テーブルに両肘をついて胸の前で指を絡めて組むと、少し身を前に乗り出した。

「その時のミゲルには知らされていなかったから、知らないのも無理は無いが、母君は不治の病に体を侵されていたんだ」

「……」

 マリアの衝撃の告白に、ミゲルは組んだ手をぐっと握りしめる。

「それで、命尽きようとしていた今際の際に、兄上に言ったんだそうだ。――病に負けて死ぬより、兄上の糧となってこの世を去りたいと……勿論、兄上はそんなことは出来ないと断った。だけど、母君にはもう選択の余地がないほど死が迫っていて、それで、兄上はやむなく……」

 体の中から病に冒され、酷い苦痛も伴っていたミゲルの母――ティエラは愛する者の手にかかって死ぬことを選んだのだった。

 ――ありがとう、メイザース。愛しい人。

 灰になり崩れ去る前に、メイザースにそう言い残して彼女は逝ったのだ。

 そして、その日メイザースは愛する妻と息子を一度に失った。

 その夜、彼はひとり静かに涙を流した。

 辛くないはずはなかった。

 理由はどうあれ、愛する者を自分の牙にかけたことも、誤解を解く機会すら与えられず、愛しい息子が家を出ていってしまったことも。

 ミゲルを追いかけて連れ戻そうかとも思ったが、最愛の者を手にかけた罪悪感と喪失感から、メイザースはすぐにその場を動けなかった。

 やがて息子が、法王ミカエルのもとに引き取られたのだとわかり、生きていることに安堵した。

 だが、神父になったことがわかると、やはり自分を憎んでいるのだと容易く想像できて複雑な気持ちになった。

 だが、彼はそれでいいと思った。

 下手に母親を失ったショックで死のうとしたりするよりは、自分への憎しみがあることで生きる理由にもなるのなら、それでいいと。

 吸血鬼である前に、自分は一人の父親で、愛しい息子まで失うことは出来ないと思ったからだ。

 どんな理由であれ、生きていてくれさえすれば、それだけで充分だと。

 陰から成長を見守り、その生涯を終えるまで姿を表さないつもりでいた。

 愛情深いメイザースは、これまでも度々ミゲルを見守り、時には陰から手助けしていたのだ。

 しかし、あの夜の事件が起き、十数年ぶりに親子は対面することとなった。

 久しぶりに間近で見る息子は、体中怪我だらけであったが立派な大人に成長しており、内心こころが震えた。

 多少口悪く育ってはいるが、その顔に妻ティエラの面影を見つけ、メイザースは歓喜した。

 本当は抱きしめて頭を撫でてやりたかった。

 だが、ミゲルの怪我の状態がそれを許してくれなかったのだ。

 なぜあの場にメイザースが現れたのか。

 それは彼が法王と知り合いだからだ。

 吸血鬼側が起こした騒動を収めるために教会に手回しをしたり進化を派遣したりと、時には協力しているのだ。
 

 その日は法王からミゲルがその場に居るかも知れないと聞かされ、わざわざ出向いたのだ。

 後は推して知るべしである。

「だから……兄上をあまり嫌いにならないでほしい」

 ミゲルからしたら母殺しの許しがたい仇だが、マリアから見たメイザースは素晴らしい兄なのだ。

 できれば親子仲良くして欲しいと思う。

 

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吸血鬼と不良神父~
~桜猫*日和~