★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

追う者と追われる者3

各話:表紙

「なにか不満でも? よりよい血筋、力を求めるのは僕たち吸血鬼の中では当たり前のことじゃないか」

 悪びれた風でもなく、サミュエルは青い瞳を細める。

 口元に浮かぶのはやや歪んだ笑みだ。

「それが嫌だと言っている。この話はもう終わりだ。私は部屋に戻る」

 身のない会話をばっさり切り捨て、踵を返す彼女だったがそうはいかなかった。

 マリアがサミュエルに背中を向けた瞬間、魔法が発動するのがわかった。

 しかしそう思った時にはすでに手遅れだ。

「<花縛フル・ブルーム>!」

 発動の言葉と共にサミュエルが手にした赤い宝玉がパキリと砕け、マリアの背中側に魔法陣が一瞬で現れる。

「な……っ!?」

 驚きと共にマリアは即、身を翻し戦闘体勢に入る。

 だが特に体に感じる痛みは無い。

「サミュエル、私に一体なにをした?」
「ご安心を。ただちょっと契約魔法をかけただけだよ、マリア」
「契約魔法……なんの?」

 訝しげに自分を見つめてくるマリアに含み笑いをしつつ、サミュエルは彼女の腰に手を回しぐっと抱き寄せる。

「そんなのどうでもいいじゃないか。君は少し大人しくしてて?」

 一見蕩けるような笑みだが、どこか毒を思わせる笑みを浮かべ彼はマリアの顔を上向かせる。

 そしてそのまま視線を合わせつつ、顔を近づけていく。

「よせ!」

 身の危険を感じたマリアは、掌でサミュエルの顎を下から上へ叩き上げた。

 その衝撃で彼はバランスを崩し軽く尻餅をついた。

「相変わらず気が強いというか、なんというか……君は退屈しないね」

 一撃貰っておきながらサミュエルはくつくつと喉を鳴らす。

 その様子にマリアの背筋を怖気が走った。

「気は確かか、従兄殿」

(今までも何度かからかわれたことはあったが、ここまであからさまなことはして来なかった。一体こいつはどうしてしまったんだ?)

「正気も正気。僕はね、君を手に入れるためなら、もうなんだってすることに決めたんだ」

 コートについた埃を払いながらゆっくりと立ち上がるサミュエル。

 そんな彼の異様さを感じ取ったマリアの本能が危険だと警鐘を鳴らす。

(なにがなんだか良くわからないが、今こいつの側にいるのは危険だ!)

 じり、とマリアが一歩後ろに引くと、同じ分だけサミュエルがにじり寄ってくる。

「逃がさないよ? まだ契約は完了していない」

 サミュエルは無感情な、氷のような笑みを浮かべた。

「この私がおとなしく捕まると思うのか?」

 ずっと肩に止まっていたサミュエルの使い魔をがしっと掴み、彼の顔に向けて思い切り投げつけた。

 それと同時にマリアはその場から跳躍し、<加速>を使い一気に舘の門の外へ出た。

 二人の間に二百メートルほどの距離が出来たが、吸血鬼同士であれば大した距離ではない。

 追いつかれてなるものかとマリアはさらに遠くへと駆けて行く。

 そしてマリアは森に入り、複雑な道を難なく駆けながら考える。

(<花縛>……聞いたこともない呪文だ。それになにか砕けた音がした。恐らく触媒を使用した魔法陣を展開したんだろう。契約魔法と言っていたな……一体なんの? サミュエルの考えていることがわからない。以前はあんな奴じゃなかったはずだ)

「それで逃げているつもりかな、マリア?」

 すぐ耳元で聞き覚えのある声がした。なんともいえない寒気を感じゾクリとした。

 振り返らずともわかる、サミュエルが追いついたのだ。

「くっ、私の背後に立つなッ!」

 思い切り鳩尾めがけて肘鉄を繰り出し、マリアは再び加速する。

「くく、楽しい狩りのはじまりだ……どこまで逃げ切れるかな、お姫さま?」

 マリアの後姿を追うサミュエルの瞳が怪しく光った。攻撃された鳩尾は大して痛くもなかったようだ。彼は再び加速してマリアを追いかけはじめる。

 二人を取り巻く景色は加速の継続使用により、どんどんその様相を変えていく。

 森の中から気付けば極めてアストルティーアの領土の外に近い場所にいた。

 マリアが移動し始めてからかなりの時間が経過していた。

 青空はいつしか夕焼けに変わっていた。長時間の加速の仕様で彼女は少々ばててきていた。

「はぁはぁ……ったく、しつこいなっ」
(どうする? いっそのこと領土外に逃げるか?)

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吸血鬼と不良神父~
~桜猫*日和~