★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

吸血鬼退治6

各話:表紙

「なにぃ!?」

 大司教は予想外のことに目を丸くする。

 血まみれの指でミゲルは銀色の拳銃に銀弾を込めていく。

「早く行け! オレもいつまでしのげるか」

 大司教ともうひとりの神父に睨みをきかせながら、ミゲルはマリアを庇うように前に出る。

「嫌だ!」

 叫ぶと同時にマリアはミゲルを庇って前に出る。

 再び発射された銀弾が、真っ直ぐにマリア目がけて飛んでくる。

「馬鹿野郎ッ!」

 とっさに前へ出ようと立ち上がろうとしたミゲルだったが、傷口から血が溢れ再び膝をつく。

(これ以上ミゲルが傷つくのを見ていられない。銀弾の一発や二発、この体で受け止めてやる!)

 マリアは覚悟を決め目を見開き、その瞬間を待つ。

 まるでスローモーションのように、弾道がよく見える。

 そして――。

 予想外のことが、起きた。

 マリアの眼の前で、銀弾が細かく切り刻まれたのだ。

 切り刻んだ物の正体は、赤い液体だ。つまり血液だ。

 ひゅるりと赤い蔦のように、優雅な弧を描くように動く。

 マリアは瞠目した。

(こんな、こんなことができるのは……私と同じアストルティーアの血を引く者のみ。まさか……)

 マリアはその血の操られる先を見遣る。

 そこに、そこにいたのは――彼女が良く知る人物で。

 そこにいたのは、しばらく館を留守にしていた彼女の兄だったのだ。

 思ってもみない味方の登場にマリアの声が弾む。

「兄上!」
「無茶をするものだな、マリア」

 彼女の兄――メイザースは優雅に彼女に歩み寄る。

 マリアと同じミルクティのような亜麻色の髪が、腰元で優雅に揺れる。

 黒の外套を羽織り、同じ色で統一された貴族風の服は金糸で彩られ、彼はまるで一国の若き王のように見える。

 銀弾を放った大司教と神父は、メイザースが放つオーラに気圧されて身動き一つできない。

 なにしろ今目の前に居るのは、実年齢三百を超える吸血鬼だ。

 しかも、吸血鬼の中でも名門のアストルティーアの次期当主である。

 一瞬で、その場の空気が重厚なものに変わる。

 その身から放たれるオーラだけで、その場に居るものを威圧する。

 大司教たちは、初めてこれほど強大な魔力と威圧感を与えられ、畏怖と共に押し潰されそうになっている。

 その顔は青ざめ今にも卒倒しそうだ。 

「我が妹に手を上げるとは……同族であれば万死に値するところだが、人間は人間に裁かれるのが筋というもの。命までは奪わぬが、愚か者の烙印を押してやろう」

 言葉と共にメイザースの操る血が、大司教と神父の手の甲に烙印を刻む。

 そして二人の愚か者に刻まれた皮膚から血がにじみ出る。

「法王に泣いて許しを乞うがいい。死は、免れるだろう」

 地の底から響くような暗く冷たい声に肝を冷やした愚か者二人は、ふらつきながらその場を後にした。

 それが見えなくなるのを確認すると、メイザースは傷ついた神父に声を掛ける。

「……息災そうだな、ミゲル」
「え?」

 ミゲルに話しかけるメイザースにマリアは疑問を覚える。

(二人は知り合いなのだろうか?)

「……オヤジ」

 なにが息災だ、と思いながらミゲルは薄れゆく意識の中でメイザースを睨みつける。

 ミゲルが呟いた一言に、思わずマリアは耳を疑った。

(今確かに、オヤジって……)

 次にマリアはメイザースを見つめる。

「どういう、ことだ?」

「詳しいことはミゲルに聞くと良い。私はこの場を引き継ぎ事後処理に当たろう。お前は彼を連れて行きなさい。手当が必要だろう」

「……わかった」

 納得は行かないが、今はミゲルの身が心配だ。

 歯切れの悪い思いを抱きながら、マリアはミゲルを担いで歩きはじめる。

「くそオヤジ、絶対許さねぇ……」
「ミゲル……」

 マリアはなんと声をかけて良いのかわからない。しかしそれは無用の心配に終わる。

 血を流しすぎたミゲルが気を失ったからだ。

 そうしてマリアはミゲルをつれて彼の家に帰ると、近所に住むシメオンを頼り、真夜中に近かったが医者を連れてきてもらった。

「またお前さんか」

 年老いた医者はやれやれとため息をつく。

 こうしてミゲルが負傷のため叩き起こされたのは、一度や二度ではないのだろう。

 部屋へ通された医者はぶつくさ言いながらも、迷いのない手付きでミゲルの傷を手当し、とっとと帰っていった。

 

 そして、長い夜が明ける。

 

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吸血鬼と不良神父~
~桜猫*日和~