★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

殺したいのに殺せない相手

各話:表紙

 出会ったのは日暮れ時だったが、しばし黄金のようだった夕暮れは、すうっと紫へ変化しやがて夜の顔を見せた。

 遠目に星の瞬きが見える。

 石畳の道を点けられたばかりの街灯が、ぼんやりと照らしている。

 白や薄い白茶色の壁の西洋風の建物が建ち並ぶ教会付近のこの街は、国の中では王都の次に人口の多いところで、小さな博物館のような家や、貴族の別宅のようなものが多く目につく。

 この国ヴェスティアは、その国土の三分の一を吸血鬼であるアストルティーアの一族が治めている。

 そして皮肉なことに、そのアストルティーアの領土は吸血鬼の天敵とも言える教会と近い。

 ――その男の名はミゲルと言った。それ以外は神父ということしかわからない。

 年の頃はおそらく二十代後半といったところか。

 色素の薄い亜麻色の短髪は鼻の先辺りまで顔を覆い、やや癖がある。

 長めの前髪から覗くのは少し勝ち気そうな苔緑の瞳。

 長身ですらりとした体躯。

 整った顔立ちは美形と言われるものに属し、彼が今、身にまとっているものが神父服でなく貴族の衣装であれば、相応に見えたことだろう。

 もっともその神父服も彼が身につけていると、どこか禁欲的ではない神父らしからぬ色香が漂っているのだが。

 ここはそのミゲルの部屋だ。

 教会から徒歩十五分ほどの場所に部屋を借りて住んでいる。

 この建物は一見すると大貴族の舘のようだ。

 数多くある部屋の内一つが彼の住処で、室内はしっかりとしていて品のある作りだ。

 しかしながら窓際にある木のテーブルと椅子、それから壁に備え付けのクローゼット、そして寝室のベッド。

 他にはキッチンの側に食事用のテーブルセットがあるだけだ。

 彼の部屋にはそれ以外に家具らしきものはほかに無い。

 なんとも味気ない部屋だ。

 カーテンは閉められ室内を照らすのはランプのうすぼんやりとした灯りだけ。

「貴様、こんなことをしてただで済むと思うなッ!」
(どうしてこんなことになってしまったんだ!?)

 深紅のロングコートを背に、ミゲルにやさしくベッドに沈められながら、マリアは抵抗する。

 しかし手首はまとめてミゲルの手によって頭上に固定され、これまた深紅のロングブーツを履いた両脚の間に彼の体が割り込んでいるため反撃もままならない。

 しかも、最悪なことに、彼女は今とても衰弱していた。

(――忌々しい。通常であればこんな下等生物など一撃で黙らせるものを。誇り高きアストルティーアの血を引く私が、人間の男に組み敷かれるなど屈辱でしかない)

「そう喚くなよ、こっちはアンタを助けてやろうってんだ。感謝されることはあっても、文句を言われる筋合いはないな」

 神父にはおよそ不釣合いな獲物をいたぶるような笑みをニヤニヤと浮かべ、ミゲルはマリアの白い喉にそっと舌を這わせていく。

 生温かい吐息とざらりとした舌の感触に思わず彼女の体が小刻みに震えた。

 しかし次の瞬間、皮膚を突き破る感触がしてそこから熱と痛みが広がる。

 歯を立てられたのだとわかった。

「い……っ、貴様、なにをっ」
(この男、今、私の喉を噛んだのか!)

 予想もしなかった行為とその痛みに、マリアの灰色がかった淡い緑の瞳が涙でにじむ。

「どんな気持ちだ。捕食される側に噛まれるってのは? しかし残念だなぁ。あいにくオレには血の味はわからないんでな。流し損だな?」

 くつくつとミゲルの喉が鳴る。

 なまじ整った容貌なだけに、悪い顔をすると箔がつく。

 その口ぶりは誰かを憎んでいるかのようだ。

 

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吸血鬼と不良神父~
~桜猫*日和~