★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

変わらぬ想い2

各話:表紙

 吸血鬼の父メイザースと、人間である母から産まれた彼は俗にいうハーフというものだ。

 しかしながら、吸血鬼よりは人間の血が濃く現れた。

 よって彼は通常の人間よりはその能力値が高い。

 サミュエルとの戦いにおいて心臓を貫かれそうになったとき銃身で受け止めることができたのも、負傷した腕で銃を扱えたのもそういう事情だ。

 だから彼は通常の人間より傷の回復も早い。

 だが、あくまで彼は人間だ。本来の吸血鬼には遠く及ばない。

 物心ついたときには、彼はメイザースとその妻であるティエラと三人で静かな森のなかに居を構え暮らしていた。

 もちろん、ミゲルは父が人ではなく吸血鬼というものだということは知っていた。

 メイザースは父親としても優れた男だった。

 母親と共にミゲルの面倒をよく見ていたし、ミゲルも頼りがいがあって子供ながらに美しいと感じていた父のことが、大好きだった。

 そして彼がが十三歳になるまでは、幸せな生活が続いていた。

 しかし、その幸せは父のメイザースによって終止符を打たれることになる。

 ある日ミゲルがいつものように家に戻ってくると、部屋に入ったとたんいつもと違う感じがした。

 やけに胸騒ぎがした。あまりにも家の中が静かだったからだ。

『母さん、居る?』

 家の中を歩き回り、ベランダに出ると彼は無事両親の姿を見つけた。

 春の温かな日差しが辺りをまばゆく照らし、若葉がさわさわと風に揺れている。

 ほっとして近付こうとして、ミゲルは愕然とした。

 なぜなら見たくはないものを見てしまったからだ。

 まず目に入ったのは、母親であるティエラの肩からぶら下がる脱力しきった腕だった。

 それから、彼女を覆う黒く大きな影――父であるメイザースだった。

『父さん……?』

 なにをしているのだと、最後まで聞くことが出来なかった。

 あまりにも異様な雰囲気が漂っているからだ。

 母に覆いかぶさるように身を屈めている父。

 その父の頭は母の顔のすぐ下にあり、こともあろうに――その喉元に牙を突き立てていたのだ。

 時間にしてほんの数秒だっただろうか、メイザースが喉元から口を離す。

 ミゲルの最悪な想像とは違い、メイザースの口元は血で汚れてはいない。

『ミゲル……母さんは――』

 メイザースがそう口にしたと同時に、母であった者は、灰となってその場に崩れ落ちた。

 その瞬間、ミゲルの喉から悲鳴が迸った。

『う、わああああああああああっ!』

 気が動転したミゲルは、その場から一刻も早く逃れたいと弾丸のように家を飛び出した。

(――父さんが、母さんを! 父さんが母さんを、襲っていた。喉に牙を突き立てて、その生き血を啜っていた……! やっぱり吸血鬼は、吸血鬼なんだ。人に仇なす化物なんだ! だって、父さんは、母さんを……殺した……。 父さんは人殺しだ! どうして!? あんなに母さんのことを愛していたのに)

 呼吸も思考もぐちゃぐちゃで、気づけば全力で走りながら泣いていた。

 悲しいのか憎いのかそれすらも判別がつかない。

 やがて走り疲れたミゲルは、森の奥深くで気を失ったのだった。

 こうして少年期のミゲルは、目の前で母が父に殺されるという大きなトラウマを抱えることとなった。

 この日以来、彼はずっと父親を憎んでいる。母の仇として。

 その後ミゲルは、法王であるミカエルに引き取られることとなる。

 そして彼は、吸血鬼を倒すことができる神父になることを自ら選び、今日に至る。

 話を聞き終える頃には、マリアの涙は止まっていた。

 あまりにも重い事実に動揺を隠せない。

 あの全てにおいて素晴らしい兄が人間の妻を娶っていて、その間に出来た子がミゲルだったとは。

 そして、そのミゲルの母の命を奪ったのもまたメイザースであるとは……にわかには信じられなかった。

「そんな、ことって……」

(兄上はそんな愚かな真似をするような人間ではない。いつだって誇り高く慈愛に満ちている。なにより、人間を襲うことを一番良しとしていないのが兄上だ。その兄上が、わけもなく妻の血を吸ったりするだろうか?)

「所詮は吸血鬼、人とは相容れないのさ」

 ミゲルは自嘲的な笑みを浮かべる。

「……私は、どうしたら良い? ミゲルの父君は……私の兄上で……私はミゲルの母君を亡き者にした男の、実の妹だ……」

 言いながら語尾に勢いがなくなっていく。

(憎くないはずがない。私は仇の妹だ)

「オレもそれには驚いてる……まさかオヤジの妹がアンタだったとはな。だけど、オレが一番憎いのはオヤジだ」

 自分のことを気遣ってくれるミゲルの言葉に、泣きそうになる。

 背中を撫でる手のひらがあまりにもやさしくて、どうしていいのかわからない。

「この件に関しちゃアンタはなにも悪くない。だから変に落ち込む必要もない」

「……っ、でも、ただの吸血鬼ならともかく……仇の身内がそばにいるのは、心穏やかでは、ないだろう……」

 母親を吸血鬼に殺されたミゲルの憎しみはどれほどだっただろう。

 そんなミゲルが、どんな気持ちで今まで自分と接してきたのかと思うと、マリアは胸が苦しくて堪らない。

 そして、憎むべき吸血鬼の自分を、愛してくれているのかと思うと胸がいっぱいになった。

「マリア、そろそろ泣き止んだよな? キスしてくれないか?」
「は?」

 いつもと変わらぬ様子でミゲルはそう告げた。マリアが驚くのも無理はない。

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吸血鬼と不良神父~
~桜猫*日和~