★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

bittersweet3

各話:表紙

「子供なんか抱きかかえて誰だろうなって思ったら、アンタだったんでびっくりしたぜ」
「ああ、これは……」

 マリアは路地裏での出来事をミゲルに話した。

「なるほど、それでこいつの家賃をオレが肩代わりすると。俺としちゃ有難くもなんともないが、最適解だろうな。アンタは人を殺さずにすんで穏便にことが運んだ」

「その、勝手なことをしてすまない……」

 ただでさえ居候の身だ。

 少なからず肩身の狭いマリアである。

 実家にいるときはお金で悩むことなど無かった。

 好きなものはほぼなんでも手に入ったし、金銭を持ち歩くことも無かったのだ。

 あれが欲しい、これが欲しいと言えば周りの者たちがすぐに揃えてくれたからだ。

 そんなに不自由ない生活を送ってきた彼女にとって、こちらでの生活はやや不便だった。

 それと同時に、金銭の価値や、寛げる部屋があること、横になれるベッドがあること、毎日食べられる美味しい食事にありつけること等の有難さが嫌でも良くわかった。

 そして人間の多くは、労働を対価に金銭を得ているのだということも。

 これはミゲルがほぼ決まった時間に出かけて帰ってくることで実感した。

 ミゲルが体を張って稼いだ給金を、自分の勝手な判断で使わせることになってしまった。

 それがマリアの気持ちを暗くした。

 罪悪感を抱いたのだ。

 自分がいかに恵まれた環境で育ってきたのか思い知らされたのだ。

「……謝らなくていい。そいつはオレの知り合いだからな。名前はバート。病弱な母親と二人暮らしでな、まだ幼いながら働きに出て大した奴だよ、こいつは」

「そう、か……こんな小さな少年まで働かなくてはならないのか……」

 マリアは慈愛の眼差しを少年――バートに向ける。

「アンタがこいつを助けてくれたんだな、礼を言う」

 ミゲルの言葉にマリアはふるふると力なく首を左右に振った。

「私はなにも出来なかった。この子は駆けつけたときにはすでに倒れていて……人間以上の能力があってもなにも……」

 ぽん、とやさしく頭に手を置かれると不覚にも泣きそうになり、マリアは唇を噛み締めた。

「泣くなよ、アンタはちゃんとこいつを助けてくれただろ?」
「……泣いてない」

 ややぶっきらぼうに言い放つ。喉の奥が痛くて熱い。

「涙が出てなくてもわかるんだよ、アンタの心が泣いてることくらい」
「だから泣いていないと!」
「素直じゃないな。体とは正反対だな」
「な……っ!」

 すぐにマリアの顔が赤くなる。

「ははっ! ほらこっちに寄こせ。アンタは傘でも持ってろよ」

 言うと同時にミゲルはマリアが横抱きにしたバートをひょいと持ち上げた。

 慌てて支えを失った傘を彼女は掴んだ。

 バートの体を濡らさないように被せられたマリアの赤いロングコートを見て、ミゲルの目がふっと細められる。

「やさしいよな、マリアは」
「は?」
「うちに着いたらあったかいコーヒーでも淹れてやるよ」
「……砂糖は二杯入れてくれ」

 すかさず注文を付け加えるマリア。

 なぜかミゲルの淹れるコーヒーがお気に入りなのだ。

「はいはい、ご主人サマのおおせのままに」

 肌を時折濡らす雨はまだ冷たかったが、マリアの心はほっこりと温かくなっていった。

(本当にこの街は平和だな。下等生物の集まりだとばかり思っていたが、そうでないことも実感できてきた。皆私に良くしてくれる。そしてそれにはミゲルの顔の広さが関係している。街の皆からはとても慕われているようだな)

 なぜかそれが嬉しいと感じてしまうマリアだった。

↑読了ついでにポチッと(*´ω`*)桜猫にちゅ~るが贈られます。
↑読了ついでにポチッと(*´ω`*)桜猫にちゅ~るが贈られます。
吸血鬼と不良神父~
~桜猫*日和~