★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

bittersweet

各話:表紙

 生命の供給線でもあるミゲルから離れるわけにも行かず、マリアが彼と暮らすようになってから二ヶ月が過ぎようとしている。

(成り行きでミゲルと共に生活することになったが……今のところ割と平和だな。食事の心配も要らないし。服も一通り何着か揃ったし)

 しかし唯一の問題は、なにも言わずに実家から出てきてしまったことだ。

 サミュエルから情報が行っているかもしれないが、あの後改めて送った封書は無事家に届いただろうか。

「まあなにも使いがこないところをみると、大丈夫だったんだろう」

 その証拠に、必要になったときのために頼んでおいた赤の錠剤は速達でマリアの元に届いた。

 石畳の道をコツコツと規則正しいリズムでマリアは歩いていく。

 少し空気は湿気を含み、空は灰色だ。まもなく雨が降るかもしれない。

 こうして住んでしまうと、人間の国もそう悪いものではないなと彼女は思うようになっていた。

 ここでは自分のこの外見のせいか、親切にしてくれる者も多い。

 少々品のない輩もいるが、心根の良い者が多いように感じている。

「お、マリアさんじゃないか。今日はどこかお散歩?」

 にこやかな笑顔で話しかけてくるのはすこしチャラい感じの優男だ。

「まあそんなところだ」
「はい、今日も綺麗な君にお花のプレゼント」

 目の前に差し出される一輪の深紅の薔薇。ご丁寧に棘は処理済だ。

「ありがとう。この後何人に配るつもりだ?」

 冗談めかしてマリアが言えば、

「あは、バレバレだった? ま、僕は花から花へ渡り歩く蝶みたいなものだからさ」

 と笑顔で返事が返ってくる。

「つまみ食いしすぎるなよ」
「いやだな、そんなはしたない。僕は花をめでるだけさ。じゃあ、またね。マリアさん」

 妖艶な笑みを浮かべ彼は立ち去った。

 さらに歩き続けていると香ばしいパンの香りが漂ってくる。

 少し先に手作りパンの店がある。

 ここの店主は小太りの女性だ。親子三人で営業している。

 マリアはこの店のパンがお気に入りだ。

「あら~マリアちゃん、ちょうど良いところに来たわ! これうちの新商品にしようとおもうんだけど、ちょっと試食してみてくれない?」

 あんぱんのような丸い顔に笑みを浮かべ店主の女性がマリアのもとまで歩いてきた。

 一口大に切った試食用のパンが彼女のふくよかな手にしたバスケットの中で並んでいる。

「ではひとつ、いただこう」

 マリアは微笑み、それから試食用のパンを一つつまみ口に運ぶ。

 焼き立てのパンは香ばしくて、ほんのりとした甘みと絶妙な塩加減だ。

 そしてふわっとした触感で後味も良い。

「どうだい?」

「うん、凄く美味しいと思う。軽く焼いてからバターを塗っても良いし、間に卵ペーストを挟んで食べても美味しいだろうな」

「さっすがマリアちゃん! そういう風に食べてもらうことを前提にした配分で焼いてみたのよ~! はい、これ記念のおすそ分け。もってってちょうだい。ミゲルにも宜しく言っといて。うちのお得意さんだから」

 満面の笑みで女店主はそう言い、二人分のパンを紙袋に入れてマリアに手渡した。

「ありがとう。あなたの作るパンは本当に絶品だと思っている」
「やだよ、もう! 褒め殺ししないでちょうだいっ」

 うふふふと女店主はとても嬉しそうだ。

 また来ると宣言し店を出る。

 立ち並ぶ店沿いに歩いていると、右に曲がった路地裏の方から子供の悲痛な声がマリアの鼓膜を刺激する。

「……」

(なにを私は一々気にしているんだ。下等生物のことなどどうでもいい……)

 そう思うマリアの心とは裏腹に、体は真っ直ぐ路地裏へ向かって行く。

 表通りから路地裏へ移動しただけで、雰囲気ががらりと変わる。

 表の賑やかな様子は遠くに聞こえ、ピリピリと張り詰めた空気に包まれている。

 前方にはうずくまる少年を取り囲むように、男が三人立っている。

 少年は時折痙攣するだけで、もう言葉を発することも出来ないようだ。

 見える部分には痛々しい痣がそこかしこについていた。

 少年の服装も貧相なものであちこちに継ぎはぎのあとが見られた。

 マリアは優男から貰った深紅の薔薇を男の背中に投げつけた。

 薔薇はそのまま男の背中に当たり、ぽとりと冷たい石畳に落ちた。

 それに気付いた男がこちらへ攻撃的な視線を向ける。

「まったく……どこの国にも下種な輩はいるものだな。高貴さの欠片もない。見るに耐えん」

 自分でも少し意外なほど、低く怒気を孕む冷たい声が出た。

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吸血鬼と不良神父~
~桜猫*日和~