★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

とかくこの世はいきづらい3

各話表紙:羽娘

 リーティアはすっかり萎縮していた。

 視線の刃も、言葉の棘も、いつだって彼女の心を傷つけ抉るのだ。

 それが名も知らぬ初対面の相手であっても。

 自分に向けられる冷たすぎる視線と言葉に恐怖し、顔からは血の気が引き、リーティアの体は小刻みに震えた。

「汚らわしい羽なし風情にやらせる仕事なんぞない。あんたみたいなのを雇ったら宿屋の看板に傷がつくぜ。とっとと帰りな」

「失礼、しました……」

 なんとか言葉を絞り出し、それだけ言うと、リーティアは年老いた犬のように、すごすごと踵を返したのだった。

(どうしよう……今日も雇ってもらえなかった)

 リーティアは激しく気落ちする。

(でも……あんまりじゃない! 門前払い同然だった。話すら聞いてもらえる状況じゃなかった……)

 翼がないというだけで、不当な扱いを受けることが悔しくて堪らない。握りしめた拳がわなわなと震えた。

(――ああ、羽が、翼が欲しい!!)

 理不尽な扱いなど慣れているとはいえ、辛いものは辛い。

 リーティアは立ち止まり苦悩するように両手を顔で覆い俯く。

 翼さえあれば、こんな理不尽なこともなくなるというのに、なぜ神は自分に翼を与えてくれないのか――終わりのない問いが胸中に逆巻く。

(わたしは、このまま生きていてもいいのですか? それとも死ぬべきですか? わたしの存在は罪ですか? わたしを見る他人の目が、言葉が、氷のように冷たく鋭く心に突き刺さり抉るのです。――もう奇異の目にさらされ、差別され、惨めに生きていくのは辛いのです)

 

 リーティア自身は控えめだが(本来の性格は母親譲りで朗らかであろうが)優しい心根のよい娘だ。

 それなのに翼がない、という理由だけで生まれてから一人の友達もおらず。

 ときおり食材の買出しなどで外へ出て、同じ年頃の娘たちとすれ違うと、その違いにリーティアは少し悲しくなる。

 こっちはいつでも一人だが、楽しそうに行きかう彼女たちは、友人同士他愛ない会話に花を咲かせ、とても楽しそうに見えるのだ。

 リーティアはいつも思っていた。

(わたしも、あんな風に友達と楽しくおしゃべりしながら通りをあるいたり、一緒にごはんをたべたり、空を飛んだり、他にももっと色々やってみたい。お揃いの服を着たり、羽飾りをつけてあげたり、そんな友達がほしい)

 だが自分が羽なしである限り、そんな日常は実現しないことも、これまで生きてきた十六年で、わかっていた。

 わざわざ、罪人の証でもある羽なしと友達になるような物好きはいないのだ。 

 そして年頃の娘であるのに、淡い恋心さえ知らない。

 恋愛は本で読んだ知識しか知らない。

 自分もいつか恋物語のような心ときめく恋に身を焦がしたいと、同じ年頃の娘のように恋に憧れる。

 いつか、王子さまのような素敵な男性と、恋愛がしてみたいと夢見ている。

 以前、自分のはるか上空を飛ぶ二つの人影をみた。

 彼と彼女は恋人同士で、大きな翼をはばたかせ空中デートを楽しんでいるところだった。

 お互いの存在を丸ごと受け入れ、愛情いっぱいの笑顔で笑いあい、見ているこちらにまで、その幸せが伝わってきたものだ。

 今の自分には、とてもじゃないが届かない、手に入らないものだ。

 手に入らないとわかるからこそ、無性にそれが、とても、とても羨ましかった。

 普通に恋だの愛だのが、無条件に手に入る環境にいることが羨ましかった。

 どれだけ渇望しても、翼がないリーティアには決して手に入れることが出来ないもの。

 はじめの一歩すら踏み出すことを許されない環境だ。

 それなのに毎日、翼がないことを侮辱され存在を否定され続け。

 酷いときは「この罪人め!」と罵られることもあるくらいだ。

 そういう背景があり、リーティアは自然と外に出かける機会が減り、家事をしたり本を読むことが細やかな幸せだった。

(翼がないのが罪人なら、わたしが生きていることさえも罪だというの? 誰か……誰でもいいから、助けて。この針の筵のような世界から――。理不尽な行為も言葉にも慣れていても、この世界は――生きていくには辛すぎる)

 ――誰に知られることもなく、彼女の頬を涙が伝い落ちた。