★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

とかくこの世は生きづらい

各話表紙:羽娘

 あれは、まだリーティアが幼い頃。

「やーいやーい! 羽なしー!」
「できそこなーい!」

 少女の前、いや、斜め上空に二人、わんぱく坊主が飛んでいる。

 その背中には天使のような翼が生えていて、鳩のようにバサバサと翼をはためかせている。

「わたしの帽子かえして!」

 少女――リーティアは泣きながら懇願する。

 そして彼女の小さな背中に、翼らしきものは見当たらない。

 どんなに少女が手を伸ばしても、ジャンプしても帽子には届かない。

(お願い、かえして。かえして――)

 

 *

 

 目覚めると目尻に涙がにじんでいた。

「ああ、またあの夢をみたんだ……」

 少女はゆっくりベッドから体を起こす。

 青灰色の瞳が夢でよかったと安堵の色を浮かべる。

 艶やかな銀色の髪は長く膝まで流れ、どこか儚げな雰囲気が漂う。

 名をリーティアといい、今年十六を迎えたばかりだ。

 リーティアは母と二人暮らしで、とても質素な暮らしを送っている。

 父親が亡くなって、家計は苦しくなる一方だ。

 その生活ぶりは一般家庭より少しだけ貧相なものだった。

 わかりやすい例えをあげるならば、月に二回お菓子にありつければしあわせだ。

 さらに彼女は問題を抱えていた。

 家計の支えである母が仕事中に骨折し働けなくなったのだ。

 母親はパン屋で働いているが、大量のパンを運ぶ途中で足を滑らせ、打ちどころが悪く骨折した。

「わたしが働いて、お母さんを助けなきゃね……」

 リーティアは少し元気のない声で、自分を奮い立たせる。ここひと月ずっと仕事を探すが、なかなか決まらないでいた。

 また、翼のせいで断られてしまうのだろうか――リーティアの胸がじくじくと痛む。

(わたしがなにをしたというの? 翼がないこと以外はいたって普通なのに)

 リーティアは自らのなにもない背中に寂しさを覚える。

(――どうして、わたしには翼が生えてこないんだろう?)

 そこでリーティアは両頬を挟んでパンパンと軽く活を入れるように叩く。

「しっかりしろ、わたし!」

 生まれてから十六年、周りの冷たい視線や心無い言葉と共に生きてきた。

(誹謗中傷だって、理不尽な扱いだって、今に始まったことじゃないし、慣れっこじゃない――!)

 リーティアは気力を奮い立たせてベッドから立ち上がると、薄水色のスカートと白いブラウスを身につけ、柔らかい素材の焦げ茶色のブーツを履いた。


 この国――ディルムーン王国は鳥人(とりびと)の住まう国だ。

 この国で翼がないものは、罪人くらいのものだ。

 およそ十歳ほどで翼は生えそろい、出し入れも自由にできる。

 また、翼といっても完全に鳥の羽ではなく、魔力やオーラといったようなエネルギーが具現化したものが鳥人たちの翼だ。

 なので、彼らは服の背中部分に穴をあけなくてもよいし、寝るときも仰向けで眠れるというわけだ。

 そんなわけで十六になった今、いまだに翼を持たないリーティアは、周りから疎外されるように育ってきた。

 この国で生きていくには翼は絶対条件なのだ。

 いつしか翼がないことは、リーティアから自分の存在価値を無いものだと思わせ、強いコンプレックスとなっていた。

 ――この国で翼がない者は罪人だけだ。

 罪人はその多くが、同胞を殺した者、略奪行為をした者、性的虐待を行った者である。

 特に同族殺しの罪は重く、生きながら翼を切り落とされるか、引き抜かれる。その後の手当てなどは当然ない。

 惨めに地を這って生きよ、という厳しい罰だ。

 罪によって翼を奪われた者は、二度と日の当たる場所では生きていけない。

 誰も彼らに手を貸さないし、情けをかけない。

 彼らは人として扱われないのだ。

 リーティアも物心ついた頃から、疎外感を感じながら育ってきた。

 とは言っても彼女は罪人ではないし、翼がないのはまだ生えてきていないだけだ。

 だが、通常なら生えそろうであろう時期を六年も経過していた。

 誰もリーティアを人だと認めてくれない。

 だから彼女は、自分が生きていてよいのかさえ自信がない。

 友達もいない。もちろん恋愛など、はるか空の彼方だ。