★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

誘拐2

各話表紙:聖女

「へぇ、聖女ってすごいんだな」

「わたしがすごいのではありません。わたしは神さまの代行で癒やしを施しているにすぎないのです」

「代行かぁ……ん? なんか音が聞こえる」

 バルさんは、なにかに気付き、荷台のうしろから外の様子を確認する。

 それは馬の蹄が地を蹴る音だった。暗闇にぼうっと白いものが浮かび上がる。

 それは徐々に馬車に近づいてきた。

 そして白馬に乗っているのは――。

「げえっ!? なんで神官がこんな夜中に馬に乗って追いかけてくるんだ?」

 白馬はすぐに馬車の後部に追いついた。

 人を三人載せた荷馬車と一人しか乗っていない馬では、速度の差は歴然だった。

「夜分遅くに失礼いたします。私の連れを返していただきに参りました」 

 水色の神官服に身を包んだ神官は、緩いパーマのかかった銀髪を揺らしながら挨拶した。

 眼鏡の奥の青い双眸がしっかりと男を見据える。整った顔立ち、そして口元には穏やかな笑みが浮かぶ。

 一見、温和な青年だ。

 彼はそのまま馬車を追い越し、その進路に立ち塞がった。

 御者は慌てて手綱を引き、馬車を停めた。

「なんだ貴様はっ! 神官がなんの用だ!」

「後ろの方には伝えましたが、あなたが誘拐した聖女を返してもらいたいのです。おとなしく引き渡すなら見逃してあげてもいいですが」

 低めの張りのある艷やかな声が響く。

 聞き覚えのある声に、フィアーナは安心する。もう自分は大丈夫だと。

「ふざけるな、誰が渡すか。前金で金貨百枚もらってんだ。絶対に渡さねぇ」

 御者は懐からナイフを取り出すと、神官の心臓めがけて投げつけた。

 しかしそれは無機質な金属音とともに弾かれてしまった。

「なに!?」

 驚愕した御者の視界には、胸元で扇を広げる神官がいた。

 扇と言ってもただの扇ではない。鉄製の扇だ。

「ちいっ!」

 男はさらにナイフを投げた。しかしそれらも神官の巧みな鉄扇捌きで、次々と地に叩き落とされた。

「やれやれ。やはり力づくで取り戻すしかないようですね」

 神官は眼鏡を外すと帯留めにしまう。

 彼からこれまでの穏やかさが消え、氷のような視線が御者を捉えた。

 馬を飛び降りた神官は一気に御者まで距離を詰め、鉄扇をその鳩尾に容赦なく叩き込んだ。

「ぐ……っ」

 まさか神官から攻めてくるとは思わなかったのだろう。

 御者は満足な悲鳴を上げることすらできず、くの字に体を丸め、そのままゆっくりと座席から地面に転がり落ちた。

「まずは一人」

 御者の横を通り過ぎ、そのまま馬車の荷台に乗り込む神官。

 フィアーナは彼の姿を見て笑顔になる。

「ラミレス、来てくれたんですね」
「この女は渡さねぇ!」

 バルさんが神官――ラミレスの前に立ちはだかる。

 が、すでに気迫負けしており、膝が笑っている。とんだ小物である。

「貴様誰に断ってフィアーナをさらった? こいつに触れていいのは俺だけだ」

 容赦なくラミレスの鉄扇が斜め上からバルさんの首めがけて、手刀よろしく振り下ろされる。

 少しばかり重い音がして、バルさんはそのまま気絶した。

「まったく、要らん手間をかけさせる……」

 ラミレスは進路上のバルさんを踏んづけてフィアーナに歩み寄る。

 それからフィアーナの手足を縛る縄を鉄扇で容易く断ち切った。

「こんな遅くまでご苦労さまです」
「お前の純潔はなにがなんでも守る」

 真剣な面持ちで言われ、フィアーナは僅かにときめいた。

 が、それもラミレスの次の一言で吹き飛ぶ。

「お前のはじめては俺がもらうんだからな。今も俺の頭の中はお前を抱くことでいっぱいだ」

「あはは、ちっとも諦めていませんね……」

「当然だ。俺はもうおあずけくらった犬どころじゃないぞ。隙あらばお前にいかがわしいことをしてやろうと思っている」

 話しながらもラミレスはフィアーナの手を取ると、そっと立ち上がらせてくれた。

「とても神官とは思えない台詞ですね」

 再び眼鏡をかけると、ラミレスはこう言った。

「知りません、そんなこと。さあ、神殿に戻りましょう」

 先程の荒々しさは消え失せ、普段の彼に戻っていた。

 

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癒やしの聖女は~
~桜猫*日和~