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誘拐

各話表紙:聖女 癒やしの聖女は~

 ガタゴトガタゴト。荷馬車が揺れる。

 ガタゴトガタゴト。荷馬車が揺れる。

 

 人気のない夜の山道を、一台の荷馬車が走る。そう大きくない馬車だ。

 荷台の前には御者と仲間が一人座っている。

「遠くから見てもベッピンだったが、近くで見るとさらに綺麗だな~! 聖女ってのは。オレがもらいたいくらいだぜ」

 男は下卑た笑みを浮かべ、ねっとりと絡みつくような視線を聖女に向ける。

 着ている服もあちこち汚れていて、革製の靴にシャツとズボンというありふれた組み合わせだ。

 御者の男も似たような格好で膝まであるブーツを履いている。

「おい、手ぇだすなよ? 依頼主からきつく言われてるからな。少しでも触れた素振りがあれば、報酬は半額以下にされちまう」

 御者が馬を捌きながら声を上げた。

「へいへい、わかってるよ。オレだって金は欲しい……女も欲しいけど」

(ああ、わたしとしたことが、また捕まってしまいました。こんなに強引な手段を取らなくても、神殿に一言入れてくださればきちんと癒やしてあげるというのに)

 聖女は何度めかの誘拐に、はあと溜息を吐く。

 それだけの仕草にも仄かな色気がにじみ出る。

 水晶のごとく澄んだ青い瞳に、清流を糸にして紡いだような煌めく癖のない真っ直ぐな銀髪、花びらのような唇はピンクの薔薇のようだ。

 おそらく、十人中九人は美人だと表現するであろう美貌の持ち主だ。

 華奢な体を包み込む聖衣は純白。袖口のゆったりした上着で首まできっちり覆われている。

 薄い服を数枚重ねた聖衣は胸のあたりからふわりと下まで広がっている。

 聖衣の裾からは、軽くて丈夫な布製の靴がちょこんと見えている。

「なあ、聖女さま、オレとおしゃべりしようぜ」

 男は欲望に満ちた視線を隠そうともせず、聖女に向けた。

 だが聖女は少しも嫌悪感を表さず、口元に笑みを浮かべた。

「はい、よろしいですよ。なにについて語りましょうか?」

 微笑んでいる聖女だが、その手足は縄できつく結ばれている。

 両手は後ろ手に縛られ、体の自由はないに等しかった。

「あんた名前は?」
「わたしは、フィアーナ・エルスワイヤーと申します。そういうあなたは?」
「オレか? オレはバル……」
「おいっ、余計なことは喋るな!」

 男がうっかり名乗りそうになると、御者が怒鳴りつけた。

 どうやら二人の会話を聞いていたらしい。

「はは、兄貴、ナイスだぜ」
「ナイスだぜ、じゃねぇ! 身元がバレたら危ねぇだろうが」

 御者の男が馬に鞭を入れ、馬車が加速する。

「ではバルさんとお呼びしますね、バルさん」
「いやぁ、あはは」

 聖女――フィアーナが微笑みかけるとバルさんは鼻の下を伸ばした。

 バルさんは美人にめっぽう弱いらしい。

「なんだ、あんた聖女っていうからどんな気位の高い嫌味な女かと思ったら、イイやつじゃねーか。気に入った!」

「まあ、ありがとうございます。バルさんも気さくなかたで、わたし安心しました。仲良くしてくださいね」

「おうよ! 依頼主の館に着くまでだけどな!」

「はい」
(その館まで無事にたどり着ける確率はほぼありませんが――)

 これほどまでにフィアーナ落ち着いているのには、明確な理由がある。

(わたしを誘拐するなんて、可哀想なひとたち。でも仕方ありませんね、やってしまったものは)

 フィアーナが心の中で呟いていると、バルさんが話を続ける。

「そういえばオレは見たことねぇんだが、ホントに聖女は難病奇病を治せるのか?」

「はい、治せます。わたしがそっと手をかざせば、どんな未知の病でもその場で治るんです。神殿には毎日のように救いを求めて、色んな場所から人が訪れます。それこそ国外からも」

 その者たちの多くは、医者でさえ匙を投げた不治の病と診断された者が多い。

 最後の望みだと全国各地からやってくるのだ。

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癒やしの聖女は~
~桜猫*日和~