★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

白レースの手袋2

各話表紙:聖女

「ラミレス、わたしそんなに、ひどいの?」
「はい。過去最高に。呪いの代償は大きかったようです」

 ラミレスは足早に自室を目指して歩く。

 もどかしくてたまらないのだろう、わずかだが眉間に皺が刻まれている。

「呪い……」

 ああ、そうか。とフィアーナは納得する。

 この体の重怠さは、手足から来るものだ。

 それはあの呪いを受けて手足が枯れ木のようになった青年と同じ部位だ。

 だからこんなに怠いのだ。

 癒やしの聖堂から神殿に入り、フィアーナを横抱きにしたラミレスは長い廊下を歩く。

 その足音は短い間隔で焦れたように刻まれる。

「ラミレス、ありがとう……途中で止めないでいてくれて」
「……っ」

 フィアーナが何気なく告げると、ラミレスは立ち止まり端正な顔をわずかに歪めた。

 まるで泣き出す寸前の子供のような表情だ。

 次にラミレスは泣き笑いのような笑みを浮かべて言った。

「あなたは仕事熱心ですから、止めたら罪悪感にかられて今後のお務めに支障がでますからね」

 本当はフィアーナが例の青年を癒やした直後、止めたかったに違いない。

 フィアーナを抱き上げるラミレスの両腕が小さく震えている。

 フィアーナは思い切りラミレスを抱きしめたい衝動に駆られた。

 だがそれができない。鉛のように重い手足が恨めしい。

(いつも余裕なラミレスにこんな顔をさせてしまうなんて……あなたにはいつも笑顔でいて欲しい……)

「ラミレ……」

 フィアーナがラミレスに呼びかけようとすると、瞬時にラミレスの雰囲気が変わり、自分を抱きしめる腕に力が込められた。

 その視線の先には、ゴア神官長がいた。

「こんなときに遭遇するとは、つくづく間の悪い男ですね、彼は。このまま通り過ぎましょう」

 ラミレスは忌々しげに呟いた。神官長は十メートルほど先にいて、この呟きは聞こえない。

「ええ」

 フィアーナも同意した。ただでさえ疲弊しているのだ。

 苦手とする神官長とは微塵も関わりたくないのがフィアーナの本音だ。

 徐々に神官長との距離が縮まり、フィアーナは不安で胸がざわついてたまらない。

 何事も起こりませんようにと、神官長と目を合わせないようにと俯いた。

 お互いの距離が近くなると、神官長は苦い顔をした。

 先日ラミレスに踏まれた足は、まだ完治していない。

 思い切り踏まれた足の指は、彼にじんじんとした痛みを伝えてくる。

「貴様などそのうち聖女付きの座から引きずり下ろしてやるからな」

 すれ違いざま神官長が物騒なことを口にした。

 だがラミレスが無言で睨みつけると、彼は苦虫を噛み潰したような顔で、そのまま行ってしまった。

 神官長の足音が遠くなると、フィアーナはホっと息を吐いた。

「今回は無難に過ぎましたね」

 緊張が溶けたフィアーナに、ラミレスは穏やかな笑みを向ける。

「無難って……わたしにはラミレスが脅しを受けたように見えたのですが」

 もし本当にラミレスが解任されでもしたらどうしようと不安になり、フィアーナは心細くなる。

「問題ありません。あの程度の小者、私の敵ではありません。ご安心を」

 当の本人はケロリとしている。

「そう? 急にいなくなったりしないでくださいね?」
「はい、もちろん。ですが、あなたにその台詞を言われると、少々複雑な心境です」

 ラミレスはクスクスと笑う。

 なにしろ彼はずっと、この十年間彼女が攫われるたびに助けてきたのだから。

「あ……で、でもわたしも好きで攫われているわけではなくて……っ」
「はい、承知してます」

 急に焦りだすフィアーナをラミレスは楽しそうに眺める。

「フィアーナが今後攫われても、何度だって助けに行きます。たとえ地獄の底でも、ね」

 本気か冗談かわかりにくい笑みを向けられたフィアーナだったが、ラミレスが来てくれるというだけでなにより心強いと嬉しくなった。

 

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癒やしの聖女は~
~桜猫*日和~