★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

白レースの手袋

各話表紙:聖女

「フィアーナ、午後からは手足が呪われた者が来るので、念の為手袋をしてください」

 ラミレスに渡されたのは、白いレースの手袋だ。

 昼前の瞼の痣のように、とっさに対応できなかったらまずいということで、ラミレスが気を利かせたのだ。

「ありがとう、ラミレス。わたしが先に気づくべきなのに」

「そんなこと言うもんじゃありません。フィアーナは毎日頑張っていますから。この程度の些細なことは私に任せておけばいいんです」

 手袋をつけ終わると、ラミレスがぽふりとフィアーナの頭を撫でた。

 彼の大きな手で撫でられると、それだけで嬉しくてフィアーナは微笑んだ。

「はい。それでは午後もよろしくお願いします」
「もちろんです。なにがあってもフィアーナは守ってみせます。安心してお務めに励んでください」

 エスコートするために自分に差し出された頼りがいのある手を、フィアーナは笑顔で握り返す。

「はいっ」

 こうして午後のお務めが始まった。

 癒やしの聖堂に移動すると、最初の患者がフィアーナの前に現れた。

 大きな布で体を隠していたが、彼は自らそれを取ると、まるで枯れ木のような両腕と両足が晒された。

 肌そのものが、人のものではなくなっていた。

 茶色に変色し木の幹のように硬くなっていて、深いしわが刻まれている。

 ここに来る前にラミレスが言っていた、呪いを受けた者だった。

「……さぞ、つらかったことでしょう。でも、もう大丈夫ですよ」
「あう……うあ……」

 己が身に受けた呪いのため、手足が枯れ木のようになってしまっているが、彼はまだ二十代だ。

 この呪いのせいで散々他人から心を深く傷つけられ、人前に出ることが恐ろしくなったのだ。

 目の下には色濃くクマが落ち、頬はこけ、全身はやせ細っている。

 数カ月ぶりに、温かい言葉をかけられた青年は、ボロボロと涙をこぼす。

 その様子にフィアーナは胸が締め付けられる。

(こんなに深く傷ついて……痣ができたくらいで物怖じしていてはいけませんね……)

 フィアーナは青年の額にそっと手をかざす。

 間をおかず温かな癒しの光がフィアーナを包み、そして青年まで包み込んでいく。

 白銀の聖なる光に包まれ、青年の枯れ木のようになってしまった手足から、泡が弾けるように光の粒が昇っていく。

 体の奥まで染み込んだ汚れが剥離するように乾いた皮膚が剥がれ、本来の青年のものへと変化する。

 数分後、完全に癒やされた青年の肌は、見違えるほど瑞々しい年相応のものになっていた。

 驚きと感動で青年の目からは涙が止まらない。

 嗚咽混じりに繰り返し感謝の言葉をフィアーナに告げる。

「ああ……聖女さま……っ、ありが、……ありが、と……ござい、ます……っ!」

 それは青年が半年ぶりに人として発した言葉だった。

「あなたに神の祝福を――」

 フィアーナは青年の額に手を当て、祝福を与えた。

 この国では聖職者が誰かに祝福を贈るとき、額に手を当て幸せを願う。

 それは時に額への口づけだったりもするが、それは同性にするのが一般的だ。

 祝福を受けた青年は、何度もフィアーナに感謝し頭を下げて聖堂を出ていった。

 それから、夕方の終業を知らせる鐘が鳴るまで、フィアーナはお務めを続けたのだった。

 なんとか今日のお務めを乗り切ったが、フィアーナはもうヘトヘトだ。

(今までの比ではないくらい、体が重い……腕一本持ち上げられません……)

「フィアーナ、よくここまで持ちこたえましたね……今までで一番ひどい状態です。すぐに浄化しますから」

 いつになく珍しくラミレスの気が急いている。

 話しながら自分を抱き上げてくれる動作は丁寧だが、その表情と雰囲気からラミレスが相当焦っていることが窺い知れる。

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癒やしの聖女は~
~桜猫*日和~