★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

拗ねました

各話表紙:聖女

「困ったことになったな」
「なにがですか?」

 フィアーナは泣き止んでまだ真っ赤な目でラミレスを見つめながら聞いた。

 目の前のテーブルには、ラミレスが食堂から運んでくれた昼食が並ぶ。

「実際、お前も見ただろう? 痣自体は以前と同様小さな物だが、一気に数が増え過ぎだ」

「そうですね。この前は大きな痣もできましたし……聖女として終わりが近づいているのかもしれませんね」

「それなら気が楽なんだがな。だが新しい聖女は未だに現れていない。それなのにお前の肌には強力な痣まで出てる……もし一度に何個も強力な痣が現れたらと思うと……」

 珍しくラミレスの表情が険しくなる。眉間に深いしわが刻まれ、深刻そのものだ。

「お前が……痣に殺されるんじゃないかって、嫌なことを考えてしまう……どうしていつも俺が代わってやれないんだって……」

「ラミレス……」

「聖女としてこれまで数え切れないほど多くの人々を救ってきたお前が、なぜ痣に苦しめられなければならない? 俺は苦しむお前の代わりにすらなれなくて、痛みすら感じられず、浄化することしかできない」

 これまでも十分すぎるほど自分の力になってくれているラミレスに、フィアーナは深い慈愛に満ちた眼差しを向ける。

「あなたはこれ以上ないほど今までわたしを助けてくれました。それだけでもわたしは、すごく、すごく、ありがたいと思っています」

「そんなことは当然だ」

「普通の人は当然だなんて言い切れないんです。……いつ聖女の役目が終わるかもわからない相手を守るなんて。もしかしたら一生このままかもしれないのはラミレスだってわかっているでしょう?」

 フィアーナは切ない気持ちを追い出すように、息を吐いた。

「ラミレス、確かにあなたは女神さまにわたしを守るよう頼まれたけど、もっと自由に生きてほしいって思ってます。聖女という立場で、本来自由に生きられるあなたを縛っているんじゃないかって。大切な人の人生を縛って狭めているんじゃないかって。だから、あなたには思う通りの人生を生きて欲しい。今ならまだ、やり直せるから……」

「やめろ、聞きたくない」

 フィアーナの話を遮ったラミレスの声は、恐ろしく怒気を孕んでいるが無機質だ。

「十年も一緒にいて、よくそんなことが言えるな。お前を無理やり抱くのは簡単だが、それをしないのは聖女として一生懸命生きてるお前を尊重しているからだ。……なにがやり直しだ。命がけでお前を守って愛してきたんだ、悔いなどあるものか!」

 言うだけ言うと、ラミレスはガツガツと昼食を平らげた。

 そして、寝室に移動するとベッドに身を投げた。

「え……っ……」
(どうしよう、ラミレスを怒らせてしまいました……)

 フィアーナはわけが分からず戸惑ったが、先に昼食を済ませると、ラミレスが寝転がっているベッドまで移動した。

 ラミレスは胎児のように丸く縮こまっている。

「あの、ラミレス……どうしたんですか?」
「……」

 背中越しに語りかけるがラミレスは反応しない。

「怒ってるんですか?」

 フィアーナが尋ねると、少し遅れて返事がきた。

「……怒ってない」

 普段のラミレスからは想像もつかない、暗く沈んだ声だ。

 どうやら本当に怒っているわけではなさそうだ。

(怒ってると言うよりも……これは、拗ねているのかしら……?)

 とりあえずフィアーナは、ラミレスの頭に手を伸ばす。

 それから、頭をやさしく撫で始めた。ラミレスはそれを大人しく受け入れている。

 二人の間に言葉はない。だが沈黙は二人にとってなにも問題はない。

 言葉をかわさずとも、お互いの存在があるだけで十分なのだ。

 暫くラミレスの頭を撫で続けていると、ふと手を掴まれた。

 ほんの少し引き寄せられたかと思うと、ラミレスの唇が手のひらに押し当てられる。

 フィアーナは僅かに目を細め、ラミレスの顔を覗き込む。

 瞼を縁取る長い睫毛、すっと通った鼻筋、ゆるく波打つ銀髪に引き締まった顔の輪郭。

 落ち着いた表情も相まって、まるで人形のようにラミレスは美しかった。

 ずっと見慣れてきた顔なのに、フィアーナは見惚れてしまった。

(わたしの前でしか見せない、無防備な顔……一日中見てても飽きませんね)

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癒やしの聖女は~
~桜猫*日和~