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進行する不安

各話表紙:聖女

 翌日。

 いつものように朝から聖女としてのお務めに励むフィアーナは、早々のうちに体調不良を感じていた。

(どうしよう、お昼まであと一時間もあるのに……喉が、焼けるように痛い……)

「聖女さま、ありがとうございます……ありがとうございます……」

 フィアーナの前に膝をついた枯れ木のように細い老人が、何度も何度も深々と頭を下げる。

 一瞬、苦痛に顔が歪みそうになり、フィアーナは自分を戒める。

(いけない、笑顔でいなきゃ)
「今まで苦しかった分、幸せになってくださいね」

 フィアーナは聖女として微笑み、励ましの言葉をかける。

 それはフィアーナが一番自分の存在をわかっているからだ。

 ただの平民と聖女では、同じ言葉でもぐんと重みが増して相手の心に響くのだ。

 だからフィアーナは人々の前では、決して不安を煽る言葉や人を傷つける言葉を口にしない。

 それは彼女が聖女になってから十年、ずっと一貫してきたことだ。

(わたしは人々に癒やしと希望を与える存在なのだから……この程度の痛みに屈するわけにはいきません)

 『癒やしの聖堂』に集まった誰もが気づかぬ中、やはりラミレスだけはすぐにフィアーナの変化に気づいていた。

 顔には出さないが、ラミレスは一刻も早くフィアーナを浄化したくてたまらないはずだ。

 表情に出ない焦りは、固く握りしめた拳となっている。

 フィアーナもラミレスも不安と焦りの中、なんとか午前中のお務めが終わる。

「フィアーナ」

 聖堂から人がいなくなると、ラミレスはすぐにフィアーナの肩を抱いた。

 強すぎる喉の痛みにフィアーナは立っていることすらままならない。

 それを察してラミレスはフィアーナを支えてくれたのだ。

「……っ」
(だめ、声がでない……)

 ありがとう、と伝えることすらできず、フィアーナは儚い笑みを浮かべる。

「無理するな。わかってる」

 青ざめたフィアーナをラミレスは力強い眼差しで勇気づける。

 ラミレスはフィアーナを抱き上げると、そのまま自分の部屋に向かう。

 今すぐ浄化をするためだ。

(ああ、わたしってなんて不甲斐ないの……いつもいつもラミレスに助けられてばかりで……ラミレスがいなければ、わたしは聖女として半人前ですね……)

 そんな自分をずっと影となり支えてくれるラミレスの気持ちが嬉しくて、申し訳なくて……フィアーナの瞳にじわじわと涙が溜まる。

 ラミレスは部屋まで来るとフィアーナを椅子に座らせ、扉の鍵を締めた。

 痣のことを知っているのは自分たち以外では法皇だけなのだ。

 他の者に知られるわけにはいかない。

「喉だな。見せてみろ」

 小さく頷くと、フィアーナは聖衣のボタンを外し、鎖骨のあたりまで広げてみせた。

 フィアーナの喉を見たラミレスが一瞬驚く。

「……今までと違って、痣が大きい。そして色も濃くなってる。……それだけ穢れの影響が強いということか」

 フィアーナの白く細い喉を覆うほど大きな痣ができている。

 今まで現れた痣は、どれも硬貨大で小さなものだった。

「……っ……!」

 フィアーナの表情が苦痛に歪む。

 喉全体をギュッときつく締められながら、中を焼かれているような感覚だ。

 うまく呼吸ができず、溜まった涙が眦から滑り落ちた。

「今、楽にしてやる……」

 ラミレスがフィアーナの喉元に顔を寄せ、そっと唇を押し当てる。

 しかし、ラミレスはすぐにいつもと違うことに気づいた。

 通常であれば触れると同時に光の粒となる痣が、そうならなかったのだ。

「どういうことだ?」

 そんなばかな、ともう一度フィアーナの喉に口づけるが、痣は無反応だ。

「試しに舐めてみるか……」

 やらないよりはマシだと、ラミレスは肉厚の舌をフィアーナの痣に這わせた。

 すると僅かに痣の色が薄くなった。

「なるほど、今まで口づけしかしてこなかったが、舐めるのも効果ありということか」

 二度、三度とラミレスの赤い舌がフィアーナの痣を這うように舐める。

 回数を重ねるごとに色は薄くなっていく。

「んん……っ」
(や……ラミレスの舌が、気持ちいい、なんて……せっかく浄化してくれてるのに、なに考えてるの……)

 喉の痛みと苦しさは消えたが、今度は気持ちよくなってきてしまい、フィアーナは一生懸命声を出すまいと抑え込む。

 だがそんなことはお見通しだと、ラミレスはフィアーナの柔肌に軽く歯を立てた。

「んぁっ……」

 軽く甘噛みされただけで、必死に我慢していた声が漏れてしまった。

 フィアーナの頬がかあっと熱くなる。

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癒やしの聖女は~
~桜猫*日和~