★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

聖痕のような3

各話表紙:聖女

 思わず喉まで声がでかかり、フィアーナはとっさに言葉を飲み込んだ。

 浄化が再開され、ラミレスの唇がフィアーナの柔肌に触れる。

 ひとつ、また一つと痣が浄化され消えていく。

 しかし数を重ねるたびに、ラミレスの唇はフィアーナの血で赤く染まる。

「ラミレス、口を拭きます」

 フィアーナが呼びかけるとラミレスは顔を上げた。

 フィアーナはふたたびラミレスの唇をハンカチで拭う。

 浄化されていない痣からは今も血がにじみ続けている。

 もう、ラミレスの顔からは完全に笑みが消えていた。

 それも当然のことかもしれない。

 彼がこの世で最も大切にしている存在に口づけるたびに、血の味がするのだ。

 浄化できるとは言え、つらくないはずはない。

 悲痛な面持ちで自分の浄化を進めるラミレスを見て、フィアーナは幾度となく彼を抱きしめたい心境に駆られた。

 こんなにつらそうなラミレスを見たのはこれが生まれて初めてだったからだ。

「ごめんなさい、あなたにこんなつらい思いをさせて……」
「お前が謝ることじゃない……ただ、聖女に選ばれただけなんだからな」

 すっかり暗く沈んでしまったラミレスの声に、フィアーナの胸が切なく締めつけられる。

 なんとかして励まそうと思うが、こういうときに限って良い考えが浮かばない。

 体中の痣を浄化し、とうとう最後の一つになった。

 残すは左手首の内側だけだ。

 ラミレスがやさしく左手を取り、そっと白く細い手首に唇を寄せる。

 やわらかな唇が押し当てられると、泡が弾けるようにして不気味な痣は宙に溶けた。

「終わりだ」
「ありがとう、ラミレス」

 フィアーナが礼を告げるが、ラミレスは左手を離そうとしない。

「ラミレス、どうし……」

 疑問は途中で途切れた。フィアーナは驚きに目を見開く。

 手のひらにぽたりと、雫が落ちた。

 その雫は、ラミレスの青い瞳から流れ落ちた涙だ。

 生まれて初めてかもしれない。

 ラミレスが自分の前で、こんなふうに泣くさまを見るのは。

 今までどんなにつらく苦しい目にあっても、ラミレスはフィアーナの前で涙を見せることはなかった。

 それが今は、隠そうともせず、静かに涙を流している。

「ラミレス……」

 フィアーナは戸惑いながらも、自由なほうの右手でラミレスの涙を拭ってやる。

 彼は自ら流れる涙を拭おうおもしない。

 フィアーナを真っ直ぐ見つめる瞳には、様々な感情が見て取れた。

 そんな目で見られては、フィアーナも心がざわついて仕方がない。

「なぜ、神は俺の大切なものを傷つける……?」
「……これは、穢れが強すぎたせいでこうなっただけで、神さまのせいではありません」

「なら誰のせいだ? お前を聖女に選んだ神が原因ではないのか? 理由はどうあれ、結果的に聖女になったことで、お前がこんなひどい目にあってるのは事実だ」

「それは、否定できませんけど……ラミレスの浄化で元に戻りますし、わたしは大丈夫ですよ」

(ラミレスの想いが痛いほど伝わってくる……わたしはこんなに大切に想われている。どうすればラミレスを安心させられるかしら?)

 ラミレスの言葉に、眼差しに、フィアーナの心はじくじくと甘く切なく疼く。

「お前がそうでも、俺は大丈夫じゃない……これがもっと進行したらどうなる? お前の痣から血がにじむだけでなく、流れるようになったら……? もし出血量が多すぎたらどうなる? 俺は、お前を失うことが、一番怖い……――」

 今にも消え入りそうな声で告げたラミレスに、縋るように抱きつかれた。

 だが、その腕は小さく震えどこか頼りない。

 フィアーナは静かに彼を抱きしめることしかできなかった。

 

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癒やしの聖女は~
~桜猫*日和~