★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

昔のこと2

各話表紙:聖女

 十四歳のフィアーナは、母の手伝いをして暮らしていた。

 極端に裕福でも貧乏でもない家に生まれ、平穏に生きている。

 食器を洗い終えたフィアーナは、多めに焼いておいたパンを紙で包むと勢いよく外に出ていく。

 玄関から家の前の道を全速力で駆け下りていく。

 弾むようにその足取りは軽い。

 背中の真ん中まである銀髪が元気に揺れる。

「はあ、はあ、はあ、間に合うかな……っ」

 暫く全力疾走していると少し息が上がってきたが、それでもフィアーナは目的地目指して走り続ける。

 やがて視線の先に、一人の少年が入ってきた。

 フィアーナの顔が期待に明るくなる。

 あと十メートル……五メートル……、一メートル。

「おはよう、ラミレスっ!」

 フィアーナは見慣れた後ろ姿に、元気に挨拶をした。

 すると少年――ラミレスはくるりと振り向いた。

「おはよう、フィアーナ。毎朝元気ですね」
「うんっ! 今朝もパン焼きすぎたからおすそ分け持ってきたの。食べる?」

 弾けるような笑顔でフィアーナは焼き立てのパンを差し出した。

 少し甘みのある香ばしい香りがする。

「はい、いただきます。毎朝、私の分まで用意してくれてありがとうございます」

 ラミレスに微笑まれ、フィアーナは頬を染めた。

「違うわ、ただのおすそ分けよ」

 照れくささから素直になれず、おすそ分けだと言ってしまった。

「そうですか、では余分なものができないように、材料を減らしてはいかがですか?」

 フィアーナがわざわざ自分の分まで早起きしてパンを焼いてくれていることを、ラミレスは彼女の母親から聞いて知っていた。

 だがフィアーナが素直に言わないので、ラミレスは少しばかり意地の悪い言い方をした。

「えっ……そんなのダメ。ラミレスの分が……」

 なくなる、と言いかけてフィアーナは自分の口を手で覆った。

 そのときには、ラミレスは焼き立てのパンを食べ始めていた。

「美味しいですよ、今日も」
「本当? よかったぁ……明日も頑張るわ」

 ラミレスが自分が焼いたパンを気に入ってくれたことが嬉しくて、ほっと一安心するフィアーナだ。

「明日も?」

「ううん、なんでもないわ」
(ダメダメ、ラミレスに気付かれないようにしなくちゃ)

 フィアーナが毎朝ラミレスの分までパンを焼くことになったのには訳がある。

 ある日、ラミレスとのんびり野原で過ごしていたときのことだ。

 空に浮かぶ綿のような雲をぼーっと眺めていたフィアーナの耳に、『ぐううううぅ~』と腹の虫が鳴く音が聞こえたのだ。

 自分の隣で顔を真っ赤にしたラミレスが俯いている。だからフィアーナは尋ねた。

「ラミレス、お腹空いてるの?」
「いえ、そんなことは……」

 そのとき再びラミレスのお腹がぐうと鳴った。

 成長期真っ只中の彼はお腹が空いて仕方ないらしい。

「お腹空いてるのね。じゃあ、今からパン屋さんに行こう? わたしもドーナツ食べたくなっちゃった」

「フィ、フィアーナが行きたいなら仕方ないですね。行きましょう」
「うんっ!」

 フィアーナは立ち上がり、ラミレスの手を取ると一緒に近くのパン屋さんに走っていった。

 ――という出来事があり、それ以降フィアーナは毎朝彼のためにパンを焼くようになったのだ。

 そしてラミレスも毎回それをきちんと食べている。

 フィアーナは当時を思い出しクスクス笑いながら、ラミレスの隣を歩く。

「楽しそうですね、フィアーナ」
「楽しいわよ。毎朝ラミレスと一緒に神殿まで行くの」

 フィアーナとラミレス。可愛い二人組が街中を歩く様子を道行く人々はやさしく見守る。

 仲良し美少女と美少年はこの辺りでは、可愛らしく微笑ましいカップルとして認定されていた。

「ねえ、ラミレス。ラミレスはこのまま神殿に通い続けて、神官になっちゃうのよね?」
「はい、そうですが」
「そっかぁ。そしたらもう、今みたいには会えなくなっちゃうのかな……」

 フィアーナの表情が目に見えて曇っていく。

「なに言ってるんです。どんなに忙しくなっても、フィアーナと会わないなんてことありません」

「だけど、神官のお勉強、すごく大変だってお母さんが言ってた。必要な知識を叩き込むために神殿に住む人も多いって……わたし、ラミレスと会えなくなるの嫌だな……」

 物心ついた頃には、いつでも二つ年上のラミレスが隣りにいた。

 フィアーナの人生はラミレスと共にあるのが普通なのだ。

「私はそうはなりません。これからも毎日フィアーナと顔を合わせます。約束します」

 ラミレスはすっと、小指を差し出した。約束の指切りをしようということだ。

「うん、約束ね」

 フィアーナは嬉しそうに小指を絡め、指切りをした。

 そして、ずっとこの幸せな日々が続くと思っていた。

 

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癒やしの聖女は~
~桜猫*日和~