★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

告白

各話表紙:聖女

 フィアーナが聖女の力を失ってから、二日が過ぎた。

 明日を含め、三日間は休みだと癒やしの聖堂の扉に張り紙をしてあるが、待ちきれない者たちが押しかけてきていた。

 数はさほど多くない。五名程度だ。

「聖女はまだか! 一体いつまで待たせるんだ!」
「早く再開してください! 聖女さま!」

 苛立つ者、必死に懇願する者、涙を流す者。

 それぞれの者にきっとつらい事情があるのだろう。

 フィアーナはその様子を、別の建物の一室から眺め、溜息をつく。

「ごめんなさい……」

 罪悪感に押し潰されそうにながら、消え入りそうな声で呟く。

(でもわたしは、この選択を後悔なんてしない。本来なら、もうここにいるべきではないし、聖衣だって着る資格はない……だけど、少しでもラミレスと長く一緒にいたいから……せめて明日が終わるまではこのままで――)

 フィアーナはラミレスと肌を重ねたときに、ある決意を固めていた。

 それは自分がもう聖女ではなくなったと、法王に報告することだ。

 新たな聖女も現れていない現在、これが意味することは一つだ。

 フィアーナが誰かと体を繋いだということだ。

 神の意思を待たず、独断したということだ。きっと法王は驚くに違いない。

 フィアーナの行いは神の意志に反することだ。

 なにかの刑罰は免れないだろう。

(罰を受けるにしても、わたしだけならまだいい。ラミレスだけは守らなくちゃ)

 ラミレスはずっと命がけでフィアーナを守り続けてきてくれた。

 生死の境をさ迷うこともあったのだ。

 そんな彼が、罰を受けるなどフィアーナには考えられない。

 寧ろ一番の功労者だと思っている。

「フィアーナ、あなたにだって人並みに幸せになる権利があるんです。彼らには申し訳ないことをしましたが、聖女はこの国以外にもいるんですから」

「それはそうですけど……」

 いつの間にやってきたのか、自分の後ろにラミレスが寄り添うように立っていた。

「後悔、しているんですか?」

「いいえ。もし後悔してたら、きっとあなたを責めていると思います。あれから本当に癒やしの力が発動しなくなって驚いたけれど、同時に安心したんです……」

 フィアーナはゆっくりと振り返り、ラミレスを見上げた。

 その瞳に浮かぶのはラミレスへの深い愛情だ。

「そんなふうに見つめられると抱きたくなって困ります」

 自分の感情を抑えることなく、フィアーナが愛情を向けるとラミレスは耳元を朱に染めた。

「うふふ」

 ラミレスの恥じらいつつも嬉しそうな様子に、フィアーナは微笑んだ。

(ああ、ずっとこのときが続けばいいのに……あなたとずっとこうして笑い合っていたかった――)

 

 翌日。

 フィアーナは一人、法王のもとを訪れていた。真実を告白するためだ。

「こんな朝早くからどうしたんだね、フィアーナ」

 法王は慈悲に満ちた表情でフィアーナに声をかけた。

 十年前より皺が増えたが、穏やかさはまったく変わっていない。

「実は猊下に重大なご報告があります」

 人生最大の緊張感にフィアーナの声がわずかに震えた。

(どうしよう、怖い……! だけどいつかわかることだし、きちんと話さなくては。これまで聖女として十年過ごしてきたわたしの、最後のけじめなんだから)

 フィアーナは震えそうになる拳をぐっと握りしめ、真剣な眼差しで法王を見据える。

 どんな結果が待っていようと、ここで逃げるわけにはいかない。

「ずいぶん緊張しているようだが、大丈夫かい、フィアーナ」

「わたしは大丈夫です。率直に申し上げます。わたしはもう聖女ではなくなりました。癒やしの力を失ったのです」

 法王の執務室に重苦しい沈黙が流れる。

 事態の重さにどちらも中々次の言葉がでてこないのだ。

 フィアーナは永遠とも思える沈黙に、心が鉛のように重くなる。

 ずるずると地中に引きずり込まれ、息苦しくなるような感覚を覚える。

(ああ、こんなときラミレスがいてくれたら……!)

↑読了ついでにポチッと(*´ω`*)桜猫にちゅ~るが贈られます。
↑読了ついでにポチッと(*´ω`*)桜猫にちゅ~るが贈られます。
癒やしの聖女は~
~桜猫*日和~