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気づかなかったこと

各話表紙:聖女

「ふう……なんとか午前中を乗り切りましたね……」

 フィアーナはラミレスに肩を抱かれながら、やや頼りない足取りで神殿の廊下を歩く。

 フィアーナに大きな痣が現れた日から一週間が過ぎていた。

 すると向こうからラミレスと同年代の神官が歩いてくる。

 彼はフィアーナを見つけると尊敬の眼差しを向ける。

「フィアーナさま、今からお食事ですか? よければご一緒しても……」

 神官の言葉を遮るようにラミレスが口を開く。

「申し訳ありませんが、フィアーナは疲れているんです。食事はまた別の機会にお願いします」

 ラミレスが丁寧に断ると、神官は途端に嫌な顔をした。

「聖女付きの神官だかなんだか知りませんが、フィアーナさまに対して馴れ馴れしいんじゃないですか、ラミレス。腰巾着のようにつきまとっているだけで、特になにもしていないくせに」

 ラミレスの聖女を救った功績は表沙汰にされていない。

 痣のこともこの神官は知らないのだ。はたから見ていれば、ラミレスがただ付き従っているように見えるのも当然と言えた。

「あなたは誤解しています。ラミレスは本当にわたしのために日々尽くしてくれているんです」

 そう告げるフィアーナの顔色が少し悪くなる。

(ああ、いつもより少しきつい……早く座りたい)

 ラミレスはすぐにフィアーナの不調を察知したが、神官は微塵もそれに気づかない。

「ですが、フィアーナさま。一度くらい私と食事をしてくださっても……」

 業を煮やした神官は、フィアーナの手を取ろうと自分の手を伸ばした。

 だが、乾いた音とともに弾かれてしまった。

「なにをするっ、ラミレス!」

 ラミレスがフィアーナに触れようとした神官の手を、振り払ったのだ。

「フィアーナの不調にも気づけぬ者が、気安く触れないでいただけますか」

 ラミレスの言葉は研ぎ澄まされた刃のように鋭い。

 一刻も早くフィアーナを休ませてやりたいのに、この神官はそれを阻害しようとする。

 そのことにラミレスは静かに怒っているのだ。

「この、偉そうに!」

「やめてください。神官ともあろうものが、そう簡単に怒りに身を任せてはいけません。あなたはもっと素敵なかたのはずでしょう?」

 フィアーナが必死に笑顔を作り、なんとか神官を宥めようとすると、彼ははっと我に返る。

 己の短絡さが恥ずかしいのか、かっと頬を赤くした。

「……軽率でした。失礼します」

 神官は詫びると、そそくさと行ってしまった。フィアーナはほっと息を吐いた。

「ラミレス、あなたもですよ? あんなふうに手を弾かれたら、誰だって嫌な気分になってしまいます」

「……すみません。私のフィアーナに他の男の手が触れるのが嫌だったので」

 ラミレスはしょんぼりとした子犬のような顔だ。

 思わずフィアーナの胸がキュンと疼く。

 どうしようと悩んでいると、そっと横抱きにされる。

「本当は立っているのもつらいのでしょう? それくらいわかります」
「ありがとう、ラミレス。それに……元々の原因はわたしですよね……」

(わたしが聖女になったから。体内で穢れを中和しきれなくて、痣ができるようになってしまったから……ラミレスはわたしを守ってくれようとしただけで、なにもわるくない)

 フィアーナが少しばかり気落ちしている間に、聖堂から近いラミレスの私室についた。

「なんでお前が落ち込むんだ。全部俺のせいにしておけばいい。それで全部うまく運んできた」

 人目がなくなるとブラックラミレスが現れた。

 椅子に降ろされると、フィアーナはようやく腰を落ち着けられると安心した。

「そう……そうだったんですね。あなたはずっと、わたしの知らないところで批難されていたんですね……今まで気づけなくて、ごめんなさい」

「気づかせないようにしてたんだから当然だ。お前に余計な気苦労させるよりマシだからな。今日はたまたましくじっただけだ」

「ラミレスが他人から悪く言われるのは、嫌です……ラミレスがいてくれるから、わたしは聖女でいられるのに――」

 そこまで口にしてフィアーナは言葉に詰まる。

 今までラミレスがどれだけ自分のために尽くしてくれてきたのか、その心を思うと悔しくてたまらなくなったのだ。

(命を落としかねない危険なことも、何度も何度もあって……辛くないはずはないのに、苦しくないはずはないのに、いつだってラミレスはわたしを助けてくれた。身の安全だけじゃない。心だってずっとラミレスがそばに居てくれたから、今日まで折れずに聖女なんて大役を続けることができた……――)

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癒やしの聖女は~
~桜猫*日和~