★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

夜会2

各話表紙

「心配いりませんよ。俺と陛下でばっちりサポートしますから。陛下も言っていたでしょう? 無理難題は俺の得意分野です」

「だけどヴァイスさま、わたしはこの国の者ではありません……しかも元侍女で……」

「それをいうなら、他国へ嫁ぐ姫たちも似たようなものでしょう。皆新しい国で一からはじめるという点では条件は同じです」

「……」

 なるほどとティナーシェは思った。

 確かに他国へ嫁ぐ姫たちも似たような状態だ。

 彼女たちも慣れない土地ではじめての正妃を経験していくのだ。

 期待と不安を胸に抱いて――。

(それに……なにより王さまが、わたしを必要としてくれているんだ……)

 ――私が君をここに連れて戻ったのは、正妃にするためだ。

 迷うことなく自分にそう告げたカーティスのことを思い出す。

 可能性以外持たない自分をカーティスは正妃にすると言い切ったのだ。

(ならわたしは……いっぱい迷惑かけるけど、その期待に応えたい……王さまの役に立ちたい)

 ティナーシェの瞳に強い光が宿る。

 深呼吸すると、ティナーシェは顔を上げてしっかりとヴァイスに伝えた。

「わかりました。正妃のお話、謹んでお受けいたします」
「はい、あなたならそう言ってくれると思っていました」

 ヴァイスは晴れやかな笑みを浮かべた。

 すっかり昇った朝日が室内を明るく照らし、庭先で賑やかにさえずっていた小鳥たちが純白の羽を広げ、青空に飛び立っていった。

 その日の夕方、政務を片付けたカーティスが別邸にやってきた。

 ちょうど夕食時であり、ティナーシェは別邸の厨房で食事の準備をしているところだった。

 カーティスには侍女をつけると言われたのだが、ラーダと自分しか住んでいないので、家事、炊事、洗濯と、自分でできることはすべて自分でやっているのだ。

「ティナーシェ、正妃になってくれるんだな」

 必死に抑えているが、カーティスの声からは嬉しくてたまらないといった感情がにじみ出ている。

「はい……でも、料理ができないので抱きつくのやめてくれませんか?」

 サラダ用の野菜を切っている最中なのだ。

 恋愛経験が乏しいティナーシェは、カーティスが傍にいるだけで気になりすぎて料理どころではない。

 しかも、昨日の窓際でのことを思い出し恥ずかしくてたまらない。

 自分を抱きしめる逞しい腕や、背中から感じるカーティスの温もり、耳元に感じる息使い。

 そのどれもがティナーシェを魅了してやまない。

(またキスされたらどうしよう……だって気持ちよすぎて訳がわからなくなるんだもの)

「そうだな、君からキスしてくれたら、離れてやってもいい」

 ちょうどキスのことを考えていたティナーシェは、自分の考えを読まれたようでビクッと肩を震わせた。

 一気に頬が熱くなる。

「可愛い反応だ。昨日のことを思い出しているんだろう?」

 ティナーシェはさらに頬を赤らめた。

 どうして今そんな恥ずかしいことをわざわざ言ってくるのかと、少しばかりカーティスが憎らしく思える。

 あまりの羞恥に顔を上げていられず、俯いてしまった。

(うぅ、逃げたい。今すぐここから逃げたい! このままでは恥ずかしさで死んでしまう……!)

 すでに胸の鼓動は嵐の海のように激しく荒れ、息苦しさを感じている。

 これ以上ドキドキさせられたら心臓が破裂してしまいそうな勢いだ。

 逃げ出したくてたまらないのに、体は少しもいうことを聞いてくれない。カーティスとこのままでいたいと無言で伝えているかのようだ。

「は……離して、ください」
「ならこの腕を振りほどけばいい。君に振りほどけないほどの力は入れていない」

 耳元でささやく声は媚薬のように甘く、ティナーシェの頭の芯を痺れさせる。

 たったこれだけで、ティナーシェの体から力が抜ける。

 この状態ではカーティスの腕を振りほどくことなど不可能だ。

「……っ」

 もう一度離してくださいと言おうとしたら、声にならない吐息が漏れただけだった。

 いくらカーティスのことが好きだからといって、ティナーシェは自分がこんなに彼に弱いとは思ってもみなかった。

「ティナーシェ、君の可愛い顔が見たい。こっちを向いてくれないか?」

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~