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ティータイムと涙4

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

 ティナーシェはこの場から立ち去ろうと、勢いよく立ち上がりカーティスの横を駆け抜けた。

 ――はずだった。

「目の前で女が泣いているのに、そのまま行かせるわけないだろう?」
「……!」

 自分の胴にカーティスの腕が絡みついたかと思うと、物凄い力で抱き寄せられていた。

「泣きたいのなら存分に泣け。そのための胸ならいくらでも貸す」

 頭をぽんぽんと撫でられ、そっと胸に押し当てられる。

 温かな胸に包み込まれ、ティナーシェは堰を切ったように泣き出した。もう涙をこらえることなど頭からすっかり抜け落ちてしまった。

 それからどれくらい泣いたか、ティナーシェにはわからない。

 なにも問題は解決していないが、泣くだけ泣いたらスッキリした。

 ティナーシェはそっとカーティスの胸に手を置き、体を離そうとした。

 それに気づいたカーティスはそっと彼女を解放してやる。

「もういいのか?」
「……はい」
「訳は聞かせてくれないんだよな?」

 カーティスが自分を心配してくれているのがわかり嬉しくもあるが、ティナーシェの心に罪悪感が芽生える。

「申し訳ありません。本当になんでもないんです、情緒不安定になっていただけで……」
「その割には号泣していたようだが」
「もう、平気です。ありがとうございました」

(本当はただの侍女のわたしなんかが、王さまに余計な心配をかけていいわけがない。王さまがいい人だから、つい甘えてしまった……反省しなくちゃ)

 ティナーシェはもう大丈夫だと、微笑んでみせた。

 しかしカーティスは明らかに納得いかないといった様子だ。

「カーティスさま、そのうちいなくなるわたしのことなど、どうぞ捨て置いてください。わたしはカーティスさまに心配してもらえるような人間ではないのです」

(だってわたしは、あなたを殺しに来ているのだから。王さまより弟の命を優先したのだから……恨まれたほうがどんなに楽なことか)

 ふう、とカーティスは息を吐いた。

「まあ、今は君が訳ありだということがわかっただけでもよしとするか」
「……」

 ティナーシェはなにも答えることができなかった。

 そしてこれが無言の肯定になってしまうこともわかっていた。

 気まずくてこのまま立ち去ろうかと思っていると、カーティスが話しかけてきた。

「本当は苦手なんだろう? 酸っぱいの」

 不意に聞かれ、ティナーシェは驚いた。

「やはりな。ティータイムのとき酸味のあるケーキは一つも食べなかったからな」
「……観察してらしたんですか?」
「まあな。私にとって癖みたいなものだ。ほら、お詫びにこれをやろう」

 カーティスは懐からなにか取り出し、ティナーシェに握らせる。

 手を開いてみると中にあったものは――。

「チョコレート……」
「厨房からくすねてきた戦利品だ。誰にも言うなよ?」
「は、はあ……」

「たまに小腹が空いて食べたくなるんだよ。くすねてきたのをここで食べるのがお決まりのパターンだな」
「なぜここなんですか?」

ここが一番落ち着くというか、私が設計した庭だからかな」
「ええっ!?」

 これにはティナーシェも驚きを隠せない。こんなメルヘンで可愛らしい庭を作ったのが、隣りにいる王だったとは。

「そんなに声を上げるほど意外か?」
「はい、いえ……あの、男の人がこんなに可愛い庭を作るなんて想像がつきませんでした」

(この素敵な庭を作ったのが王さまだったなんて……わたしったらなにも知らずにここを作った人は天才だとか勝手に考えてたのね。なんだか恥ずかしい)

 改めて周囲を見回す。

 本当におとぎ話に出てくるような、今にも妖精が飛び出してきそうな素敵な庭だ。

 月光に照らされるさまは時が止まったようで、どこか現世とは違った雰囲気がある。

「君はこの庭が好きか?」
「はい。ひと目見て気に入りました。ずっとここでのんびりしていたいくらいです」

 そのとき寒気がしてティナーシェは小さなくしゃみをした。

「ずっとここにいたから、体が冷えたようだな。部屋まで送ろう」

 すっと手が差し出される。
 ティナーシェは一瞬迷ったが、カーティスの手に自分の手を重ねた。

(あったかい……この人に触れていると安心する)

 自分の手を引き前を歩くカーティスの背中を見つめながら、なぜか部屋が近づくたびに少しずつ寂しくなってくることにティナーシェは気づいた。

(もう少しお話したかったけど、相手は王さまだし、夜も遅い……それに王さまがこんなふうに接してくれるのは、わたしが公爵令嬢と偽っているからだもの。わたしがただの侍女だったら同じお城に仕えていても、きっと会話を交わすこともないんだ……)

 部屋の前まで来ると、わずかに胸が切なく疼いた。

 繋いでいた手が離れ、ぬくもりが失われたことに寂しさを覚える。

「おやすみ、ティナーシェ。また泣きたくなったらいつでも私の寝室に来るといい」
「い、行きませんっ」
「ははは、そうか。ちゃんと布団をかぶって寝るんだぞ」

 ぽんぽんと頭に手をおいたかと思うと、カーティスは自室へ帰っていった。ティナーシェは寝室に戻りベッドの上に体を横たえた。

「あ……わたし、王さまにおやすみって、いってない……せっかく送ってくれたのに」

 その夜、カーティスの胸を借りて泣いたせいか、ティナーシェは久しぶりに熟睡した。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~