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ティータイムと涙3

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

 ティナーシェはレース素材で作られた丈の長い上着を羽織り、部屋を出る。

 とくに目的地は決めていない。足の向かうまま歩くだけだ。

 肩を落としとぼとぼと老犬のように頼りない足取りで、白い回廊を歩く。

 もちろん周囲の者が目覚めないよう、足音を立てないことが前提だ。

 今夜は満月で物の影がはっきりと見える。

 とても明るい月だ。

 だから灯りなしでもティナーシェは迷うことなく歩くことができる。

 辺りは静寂に包まれ、昼間とはうって変わって神秘的な雰囲気がある。

 静謐な月の光が満遍なく降り注いでるせいかもしれない。

 時が止まっているのではないかと錯覚してしまうくらいだ。

 夜の少し冷ややかな空気が心地よい。

「あ、ここ……」

 気づけばティナーシェは、朝訪れた季節の花が咲き誇る庭に来ていた。

 そう、おとぎ話の世界のような庭に。

「そういえば今日の出来事だったのよね、蜂に襲われたのは……」

(とても怖かった……死ぬんじゃないかって思ったわ。王さまが助けてくれなかったらどうなっていたか)

 自分を助けてくれた若き王の顔が浮かび、ティナーシェはやるせなくなる。

 カーティスはティナーシェにとって、決して悪人ではないからだ。

 王であるのに威張りきっておらず、部下とも気軽に言い合う関係だ。

 少し強引なところがあるかと思えば、その根底にあるのは相手への思いやりの心だったりするのだ。

 そしてティナーシェ自身、カーティスと過ごす時間は不快なものではなかった。

(まだ会ったばかりでなにも知らないはずなのに、わたしが心の奥で苦しんでいることに気づいてた……わたし以外誰も知らない苦しみに――)

 人気のない庭を音もなく歩みを進め、四阿まで来るとティナーシェはそこにある椅子に腰を下ろした。

 沈みはじめた気持ちを代弁するように、ティナーシェの頭が下を向く。

(どうして姫さまは王さまを殺したいの? 王さまは姫さまにそう思わせるほどひどい仕打ちをしたの? わたしの最愛の弟を人質に脅して、暗殺を命じるほど王さまが憎いの?)

 ティナーシェも馬鹿ではない。

 出発当日まで、なぜ王を暗殺したいのかと理由を問い続けてきたのだ。

 だが王女はそのことだけは決して黙して語らなかった。

 王女が理由すら話してくれないのならと、弟と二人で国外に逃亡することも考えたが、喘息持ちでひ弱な弟を連れ出すことに大きな抵抗があった。

 なにしろ自分は医者ではないし、不測の事態が起きたとき弟に適切な処置ができないことも理解していた。

 また、裏切られたとわかれば王女は地の果てまで追手を差し向けてくるだろう。

 その追手をかわしながら弟の身の安全を守ることは自分にはできないとわかっていた。

 武器を扱う訓練すら受けたことがないのだ。そんな自分がどうやって追手から弟の身を守れるというのか。

(わたしって、なんて無力なの……いくら礼儀作法ができたからって、身内一人も守ることができない……!)

 膝上に置かれたティナーシェの小さな拳が小刻みに震える。

 無力な自分に失望して、苛立って、腹が立って仕方ないのだ。

(結局わたしは姫さまに逆らえず……王さまを暗殺するためにここまで来てしまった! わたしは人なんて殺したくないのに! ただラーダと普通に穏やかに暮らせたらそれだけで十分なのに……っ!)

「くやしい……」

 ティナーシェがそう呟いたとき、別の声が耳に入った。

「なにが悔しいんだ?」
「――!?」

 俯いていた顔をサッと上げると、いつの間にそこにいたのか、カーティスが佇んでいた。

「私が近づくのにも気づかないとは。なにをそんなに深刻に悩んでいる?」

 カーティスだと確認できたとたん、ティナーシェの瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちた。

 意図したわけではない。

 それなのに、勝手に涙があふれて止まらなくなってしまったのだ。

(うそ、どうして!? いけない、王さまにこんな姿を見せては!)

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~