朗読と自覚4

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

 その日の午後、カーティスの言葉通り、ティナーシェは彼と再会した。

 夕食までの間、朗読を聞かせてほしいと王に呼ばれたのだ。

「よく来たな。昼間の続きを聞かせてくれないか」
「はい、カーティスさま」

 夕暮れ前の王の私室のバルコニーで、二人は白のベンチに並んで座っている。

 目の前には美しく整えられた王城の庭が一望でき、そのさらに先には城下町や森が広がる。

 ティナーシェが朗読をはじめると、カーティスは瞳を閉じ美しい旋律に耳を傾ける。

 余計な癖がついておらず素直で流暢な発声と、程よい緩急を織り交ぜたティナーシェの朗読は、それはそれは聞きやすいものだった。

 情景がありありと目の前に浮かぶのは、文章の力だけではない。

 ティナーシェが一話読み終わると、カーティスはうとうとと舟をこいでいた。

「カーティスさま、起きてください。今、寝てしまったら夕食が……」
「……ああ、悪い。君の声は心地よくてな」

 ティナーシェの問いかけにカーティスが答える。

 どうやら完全に寝てしまったわけではないようだ。

 無理に起こしてしまったわけではないと分かり、ティナーシェはほっとした。

「あまりよく眠れていないのですか?」

「いや、そこそこ寝ているし体調も悪くない。……君の声には睡眠を誘発するなにかがあるのかもしれないな。自分でもびっくりするくらい安心する……」

「ではカーティスさまが眠れないときに呼んでください。いつでも読んで差し上げますから」
「それはありがたいな」

 二人は微笑みあった。

 ティナーシェはほんの些細なことでもカーティスの役に立つことが嬉しい。

 最悪の結果が待っているとしても、自分が好きになった相手の喜ぶ顔はなにより嬉しいものだ。

「そういえば君は、私と結婚したくて行儀見習いになったと言っていたな」

 不意の発言にティナーシェは心底驚いた。

 初めて庭でカーティスと出会い怪しまれたとき、とっさに思いついたでまかせだったのだ。

「ななな、なんで覚えてるんですか、そんなこと!」

(ああ、わたしってなんて馬鹿なの! あのときは最善の言い訳だと思ったけど、なんて無礼で恥ずかしいこと言ってしまったんだろう)

「うん、あんなに色気がなくて必死な告白を受けたのは初めてだったからな。忘れるわけがない」

 ティナーシェの顔が一気に赤くなり、恥ずかしさから俯いてしまう。

 可能な限り身を縮め小さくなる。

 そんな彼女を楽しそうにカーティスが見つめる。

「あれは、軽率でした。忘れてください……」
(このまま溶けて消えてしまいたい……恥ずかしすぎる)

「それは無理だな。しっかりと脳に焼き付いてしまった。しかも君は、私と結婚したいと言っておきながら、まったくそんな素振りがない。ミレーユの十分の一も媚を売ってこない。実に興味深い存在だ」

「聡明なカーティスさまは、色仕掛けで簡単に落ちるようなかたではありませんし。そ、そうです。だから攻めあぐねているのです!」

 ティナーシェがこれだ! と思い、自信満々に言い切ると、カーティスが噴き出した。

「あははは! 本当に君は面白いな。そんなに素直でよく今日まで生きてこられたものだ」
「えぇ!?」

 今度こそバッチリだと思ったのに、カーティスに笑われティナーシェは混乱する。

 するとカーティスの手が自分の顎を捉え、すうと上向かされる。

「あの、なんでしょう……?」

 心臓が早鐘を打ちはじめティナーシェは落ち着かない。

 どうしたのだろうとカーティスを見上げていると、彼はにっこり微笑んだ。

「君は……」
「はい……?」

 この王は一体何が言いたいのだろうと思っていると、カーティスがゆっくり顔を近づけてきた。

 すぐにお互いの鼻先が触れるほどの距離まで近づかれ、ティナーシェの顔に体中の血が集まる。

 こんなに王を間近で見るのは初めてで顔が火照ってたまらない。

 このままで二人の唇が触れ合うのも時間の問題だ。

 ますますティナーシェの胸の鼓動は高鳴り、緊張のあまり身動きできなくなった。

(ど、どうしよう、このままだと王さまと、キ……キス……)

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~