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朗読と自覚

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

◆朗読と自覚

 温室で過ごした日から三日が過ぎた。特に用事もないので、ティナーシェはいつものおとぎ話に出てくるような庭にやってきた。

 四阿の椅子に座り、カーティスが貸してくれた童話集を読んでいる最中だ。

 以前カーティスが言っていたとおり、どの話もハッピーエンドだ。

 半分ほど読み進めた時点で、すべての物語がキスで解決している。

(本当に、なんでもキスで解決できたら楽なのに……姫さまも王さまも傷つけず、ラーダも助かる方法はないのかしら?)

 などと少々ずれたことを考えながら、ティナーシェは楽しそうに読書を続ける。

 そこからさらに二十ページほど読み進めた頃、一人の令嬢が庭に訪れ、ティナーシェの近くに来た。

 ティナーシェが顔をあげると、目の前に性格がきつそうな美女が立っている。

 深い青紫のドレスがよく似合っている。しかし漂う雰囲気はどこか高慢だ。

「ちょっとあなた、それ陛下のものじゃなくて?」
「あ、はい。ここに来たばかりの頃、陛下が貸してくださったものです」

 素直にティナーシェが答えると、美女は心底嫌そうな顔をする。

「ブレイユ国の公爵令嬢だかなんだか知らないけど、陛下に纏わりついて迷惑なのよ。さっさと国に帰ったらどうなの?」

「わたしもできることなら、そうしたいと思っています」

(それなのに王さまとなんの進展もないまま今日まできてしまった……)

 考え事をした一瞬の隙を突いて、ティナーシェの手から童話集を取り上げられてしまった。

 そして今、美女の手の中にある。

「返してください!」

「あなたごときが陛下の私物に触れるなんて我慢ならないわ。これは私が預かっておくわ」

「そんな……読み終えたら陛下にお返ししなくてはならないんです、返してください」

 ティナーシェが椅子から立ち上がり、本を奪い返そうとするが、相手のほうが上手らしくティナーシェの伸ばした手は空を切る。

「嫌よ。あなたなんかに触れてほしくないわ」
「ほう、お前は私の見ていないところで、そんなことをしていたのか、ミレーユ」

 予想外の声がしてそちらに視線を飛ばせば、そこにはカーティスがいた。

「陛下!」
「……!」

 驚きの声を上げる美女ミレーユと、声にならないティナーシェである。

「庭の入口から見えていたぞ。その本は私が直接ティナーシェに貸したものだ。すぐに返せ」
「で、ですが……」
「早くしろ」

 そう告げるカーティスの声は冷たくわずかに怒りを孕んでいるように聞こえた。

 さらにカーティスにジロリと睨まれ、ミレーユはそそくさと本を返した。

 それから彼女は小さく咳払いをし、気分を切り替えると華やかな笑みを浮かべた。

「陛下、夜会が近づいてまいりました。もしよろしければ私とご一緒していただけませんか?」

 先程のティナーシェに対する態度は打って変わり、ミレーユは豊満な体をカーティスに擦り付けるように寄り添う。

 それを目にしたティナーシェは、ひどく居心地が悪いと感じた。

 そんなティナーシェに構わず、ミレーユはカーティスの腕に胸を押し付ける。

「私にそんなものを押し付けるな。気分が悪い」

 ぴしゃりと言い放ち、カーティスは腕を振り払う。あっさりと逃げられたが、ミレーユは諦めない。

「陛下ぁ」

 鼻にかかる媚びた声を発し、再びカーティスの腕に自分の腕を絡め体を擦り寄せたのだ。

「迷惑だと言っているのがわからないのか? 気安いぞ、分を弁えろ」

 彼にしては珍しく感情のない声だったが、それとは逆にカーティス自身から漂う雰囲気は、切れ味鋭い抜き身の剣のようだった。

 殺気に近いものを向けられ、ミレーユは反射的にカーティスから離れた。

 肌に無数の刃が突き刺さるような感覚に、彼女は逃げるようにこの場を去った。

「やれやれ」

 呟きとともにカーティスがティナーシェの隣に腰を下ろす。

 すでに先程のピリピリとした気配は消え、いつものカーティスに戻っている。

「悪かったな。彼女はミレーユと言って、とある公爵の娘でな。人の言うことを聞かないし、たまに無礼だ」

「ミレーユさま……」
「この庭へも立入禁止だと言ってあるのに、勝手に入ってくる。困ったものだ……」

 いつも余裕たっぷりのカーティスが、顔を顰めているのを見てティナーシェは新鮮だと感じた。

「カーティスさまでも、手を焼く相手がいらっしゃるんですね」
「そのようだ」

 カーティスは苦笑した。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~