10/24:雑記更新 10/23~:更新再開「吸血鬼と不良神父の溺愛情事」10/22:祝☆完結「癒やしの聖女は神官に体を狙われています」

プロローグ

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

「ティナーシェ、すべての準備が整ったわ。あなたは明後日、隣国ザールワースへ向かうのよ」

 口答えは許さないといった強い口調でぴしゃりと言い切られ、ティナーシェは一瞬言葉に詰まる。

 彼女にそう告げた本人は華やかな容姿の若い女性だ。

 その身に纏うのは豪華な真紅のドレス。ドレスに引けを取らない美しい女性だ。

 長い銀髪、そして勝ち気そうな青い瞳がティナーシェを見つめる。

 ここはとある私室のバルコニーだ。

 白亜の立派な手すりには贅沢な彫刻が施され、ただの貴族の建物ではないことがわかる。

 華美だが煩いと感じさせないのはひとえに職人の腕がよかったのだろう。

「どうか、お考え直しください。わたしには無理です!」

 ティナーシェは恐る恐る口にした。ペールグリーンの瞳が不安に揺れる。

「自分の立場をわきまえなさい。あなた私に抵抗するつもりなの? 侍女の分際で」

 射るように見据えられ、ティナーシェはビクッと肩を震わせた。そのはずみで腰まで届く明るい水色の髪が揺れた。

「ですが、姫さま……わたし……」
「黙りなさい。私のいうことをきかないのなら、弟の身の安全は保証しないわよ」
「……っ!」

 口元をいびつに歪めて笑みを作る王女の様子に、ティナーシェは恐怖に息を呑んだ。

 王女は一歩前に踏み出すと、ティナーシェの耳元で笑み混じりの声で確認するように問う。

「ねえ、ティナーシェ。私の『お願い』きいてくれるわよね?」

 とても優しく甘美な声であるのに、ゾッとするほどの寒気を感じ、ティナーシェはすぐに言葉がでてこない。

 額には嫌な脂汗がにじむ。

「……っ、はあっ……あ……わ、わたしは……」

 ティナーシェは心が押し潰されそうになり、酸素を求めて苦しむ魚のように口をパクパクとさせた。

「迷う必要があって? 弟とあの王と……どっちが大事かしら? 明白よね?」

 今、一番考えたくないことを口に出され、ティナーシェは瞠目する。

「…………っ……」

 どうしても素直にはいと返事することができない。

「なにを迷っているのかしら。選択肢はひとつしかないでしょ?」

 クスクス笑いながら、王女は愛撫するようにティナーシェの首筋を手のひらで撫でる。

「ねえ、ティナーシェ。殺してきてくれるわよね?」
「……う……っ」

 ティナーシェの細く白い首筋を撫でていた王女の手が、ぐっと首を掴んだ。

 急に首を掴まれ気道が狭くなったティナーシェは息苦しくなる。

(く、くるしい……このままではわたしが先に……)

 酸欠で苦しむティナーシェの目尻に涙が溜まっていく。

「ティナーシェ、返事は?」
「ぅ……は……い……」
「わかればいいのよ」

 意識が遠のきそうになりながら、ティナーシェが必死に返事をすると王女はぱっと手を放した。

 瞬時に気道が広がり新鮮な空気が入ってくる。

 たまらずティナーシェは激しく咳き込み、その場に崩れ落ちた。

「あははははは!」

 さも満足だといわんばかりに王女はその場をあとにする。

 弾んだ様子でヒールが床を蹴って歩く音が辺りに響き、やがて静かになった。

 しかし一生懸命息を整えるティナーシェの耳に、いつまでも耳障りな声が纏わりついていた――。

 


‥……‥**◆**‥……‥

不穏なシーンからはじまりました。ゆるふわ設定ですが、一緒にティナーシェの様子をあたたかく見守っていただけると嬉しいです(*´ω`*)

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~