10/24:雑記更新 10/23~:更新再開「吸血鬼と不良神父の溺愛情事」10/22:祝☆完結「癒やしの聖女は神官に体を狙われています」

温室3

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

「落ち着いているのかと思えば、そそっかしいな、君は」

 耳元でカーティスの声が聞こえ、ティナーシェは驚きに閉じた目をパッと開けた。

「え、あれ……?」

 てっきり蓮池に落ちてずぶ濡れコースだと思っていただけに、ティナーシェは思わず蓮池とカーティスを交互に見返してしまう。

「よかったな、私が近くにいて」
「カーティスさま……」

 頬が触れそうなほどの至近距離で顔を覗き込まれ、ティナーシェは一気に自分の顔が火照るのがわかった。

 背後から自分の胴体にカーティスの腕が回り、抱きすくめられるような体勢だ。

 つまり、彼がティナーシェの危機を救ってくれたのだ。

「は、離してください……」

 これほどまでに異性と密着したことがないティナーシェは、恥ずかしくてたまらない。

 一秒でも早く解放されたくて仕方がない。

 動揺しすぎて心臓が喉の奥から飛び出しそうだ。

 なにしろ、この若き王は年頃の女性なら誰でもときめいてしまうような、麗しい美貌の持ち主なのだ。

 そこにわずかに艶を含む声と、逞しい体が加われば、彼に恋心を抱く女性がどれほど大勢いるか想像に難くない。

「今、離せば池に逆戻りだが、いいか?」

 そう話すカーティスの声に含み笑いが混じっているのは、きっと気のせいに違いない。

「だっ、だめですっ!」

 せっかく濡れずに済んだのに逆戻りはご免だと、ティナーシェは背中をカーティスの胸に押し付けた。

 すると、そのままふわりと持ち上げられ、通路にそっと下ろされた。

「……よかった。ありがとうございます、カーティスさま」

 カーティスから解放され、ティナーシェは心底ほっとした。これ以上ドキドキさせられては心臓が保たない。

「ああ。それよりも、君は軽いな。ちゃんと食べているか?」
「食べてますよ。美味しくて毎回食べすぎているんじゃないかって思うくらいです」

 ティナーシェが微笑んで見せると、カーティスは神妙な顔つきになる。

 どうやら納得行かないようだ。

「悪いがもう一度抱っこさせてくれないか?」
「そんな、恐れ多いですから……」
「確かめたいだけだ、すぐに済む」

 いいだろう? と淡く微笑まれると、ティナーシェはもう強く断れなかった。

「わかりました」

 ティナーシェがそう言うと、カーティスは彼女を横抱きに抱える。

「うーん……」

 すっきりしない表情で唸るカーティス。

「あの、どうかなさったんですか? 早く下ろしてほしいのですが……」
「やっぱり軽い……今夜はともに夕食をとろう」
「え?」
「本当にちゃんと食べているのか、不安だ」

「食べてますから、安心してください。カーティスさまと一緒に食べるほうが落ち着きません」
「それは遠まわしに私と食べたくないと言っているのか?」

「違います! わたしのようなものが王であるカーティスさまと食事の席を同じにするなんて……」
「なんだ、そんなことか。本心から嫌でないなら構わんだろう?」

「それは、そうですが……」

 ティナーシェが決めあぐねていると、カーティスが人の悪い笑みを浮かべてこう言った。

「はっきりしない奴だな。なら君がはいと言うまでこのままでいよう。なにしろ君はブレイユ国からの預かりものと言ってもいい。それなのに食事もまともに出さなかったのかと思われたら、私の信用が地に落ちる」

「……っ」

 まさかの条件にティナーシェは息を呑む。

 可否を問うのではなく、一つの答えを口にするまで解放されないということだ。

 それは困る。非常に困る。下手をすれば心臓が破裂するかもしれない。

 数分膠着状態が続いたあと、ティナーシェは蚊の鳴くような声で肯定したのだった。

「よろしい」

 望む答えを得たカーティスは満足気に告げた。

 それから言葉通りティナーシェを解放してくれた。

 やっとカーティスから解放されほっとしていると、彼は少し離れたほうへ歩いていく。

 何事かと眺めていると、芝生の上に投げ出された如雨露を拾った。

「……あ……」

 それでティナーシェは察した。

 カーティスはティナーシェの悲鳴を聞いて、水撒きを中断し如雨露を投げ捨ててまで駆けつけてくれたのだ。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~