★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

温室2

各話表紙

「綺麗……」

 生まれて初めてこのような温室を見たティナーシェは、強い感銘にそれしか言葉がでてこない。

 もうこれだけで、沈んていた気持ちがどこかへ飛んでいってしまった。

 カーティスに手を引かれるまま、温室の中に入ると、すぐに空気が変わったことに気づく。

 まだ誰も足跡をつけていない新雪のような、清麗な空気に包まれる。

 余計な不純物が一切ないのではないかと思うくらいだ。

「落ち着くだろう?」
「はい。なんだか聖域にいるみたいな気持ちになります」

 ティナーシェの返事にカーティスは目を細める。

「あながち間違いではない。ここにある植物は、清らかな空気と水でしか育つことのないものばかりだ」
「……そうなんですね。初めて見る植物ばかりです」

 視線の先では淡い色合いの葉や花を持つ植物が、幻想的な雰囲気を醸し出している。

 あのメルヘンな庭もそうだが、ここも人間界とは思えないような不思議な場所だ。

 温室は左右と真ん中の三つに分かれている。

 壁沿いには淡い色調のピンクやブルー、ホワイトの可愛らしい花が咲き誇る。

 遠目に見ればふんわりと靄がかかっているようだ。儚げでいて美しい。

「好きに見て回るといい」

 カーティスはそう言い残し、温室の外に出ていった。

「どれも普通の庭では見たことがないものばかりだわ……茎の色が緑というよりは青に近い」

 厚意に甘え、ティナーシェは温室をゆっくり散策しはじめた。

 すぐに思ったことは、この温室の植物たちは、どれも大して大きくないということだ。

 一番大きなもので、自分の手と同じ程度だ。

 右側の通路に沿って真っすぐ歩き、次に左の通路を歩く。

 植物の種類ごとに綺麗に整理されていて、配置にも気が配られているようだ。

 茎が白いものや、綿毛のようなもの、垂れ下がって花をつけるものなど、見ていて飽きることがない。

(こんなに小さいのにすごく生命力があって、力が湧いてくる気がするわ)

 ティナーシェが和んでいると、温室の入り口から如雨露を手にしたカーティスが入ってきた。

 そのまま彼は近くの植物から水を撒いていく。

 その様子を傍目に見ながら、ティナーシェは真ん中の通路を歩いていく。

 歩みを進めた先には蓮池がある。見事な蓮の花が咲き乱れている。

「なんて綺麗な青……」

 ティナーシェは自分の近くに咲く青い蓮をよく見ようと、その場にしゃがむ。

 円形の蓮池を上から覗き込む体勢になる。水面に自分の影が写りわずかに揺れた。

 蓮花だけを見ていたティナーシェだったが、ときおり水中をなにかが移動するのが目に映る。

 よく目を凝らしてみると、人差し指と同じくらいの大きさの魚がすいーっと横切っていった。

「まぁ、お魚がいるのね。かわいい……」

 蓮池を楽しそうに眺めるティナーシェに気づくと、カーティスはくすりと笑う。

 如雨露で水をやりながら、次第にティナーシェとの距離が近くなる。

 しばらく蓮池を眺めていたティナーシェだったが、十分蓮花も堪能したので立ち上がる――いや、正確には立ち上がろうとした。

 しかし、運悪くドレスの裾を踏んでいたらしく、ティナーシェの体はバランスを失い大きく傾く。

「えっ、あっ、うわっ、ちょっと……!」

 なんとか体勢を立て直そうと手をバタバタとさせバランスを取るが、無常にも体は蓮池のほうに傾いていく。

「わっ、わっ、……っ、だめーっ!」

 重力に引かれるままにティナーシェの体は蓮池めがけて落ちていく。

 ここまで体が傾いてしまっては、もう修正はきかない。

 どうしようもない状況に、濡れる覚悟でティナーシェはぎゅっと両目を閉じた。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~