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温室

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

◆温室

 ティナーシェがブレイユ国の王女に手紙を出してから三日後に返事が届いた。

 封筒はすでに開封済みで、文面を読み終えたティナーシェは深い溜め息を吐く。

 王女からの返事はこうだった。

 都合よく王の世話係になったのなら、とにかく二人きりの時間を増やして早々に籠絡しろ――と。

 それから、頃合いを見計らい特注のナイフを送ると書いてあった。

「姫さま……」

 ティナーシェはがっくりと肩を落とした。

(追伸で書き添えておいた部分は、丸ごと無視されているわ……暗殺を思い留まる気は微塵もないみたい。王さまは素敵なかたなのに。わたしみたいな新参者にまで気を配ってくださる、やさしいかたなのに……)

 もう朝から何度手紙を見返したかわからない。

 もしかしたら、というティナーシェの一縷の望みは届かなかった。

 沈んだ気持ちのまま、王女から届いた二通目の手紙を机の引き出しにしまった。

 ティナーシェは気持ちを切り替えようと、ぷるぷると頭を左右に振った。

 少し大げさにすることで、この嫌な思いを自分の中から追い出したかった。

 思いを振り切るように立ち上がり、ティナーシェは王の私室へ足を運ぶ。

 部屋の場所は覚えたので、大臣であるヴァイスの迎えはいらないと伝えてある。

 なのでティナーシェは今日から一人でカーティスの元へ向かうことになった。

 見慣れた白の回廊を幾度か曲がると部屋に到着した。

 扉を軽く叩いて部屋に入ると、カーティスに微笑みかけられる。

 内心少しドキドキしながら、ティナーシェも微笑み返す。

「おはようございます、カーティスさま。今日はどうなさいますか?」

「今日は珍しく予定が空白でね、まずは温室に行こうか。あの庭を気に入った君なら楽しいんじゃないかな」

「温室があるんですか、知りませんでした」
「だろうな。私が個人的に作った温室だ。専属の庭師とヴァイス以外入れたことがない」

 ということは完全に個人の趣味であり、気のおけない者しか入れない貴重な場所ということになる。

「……そんな場所に、わたしが入ってもよろしいんですか?」
「もちろん。誠実な君だから、見てほしいと思う」

 誠実、という言葉にティナーシェの胸がちくりと痛む。

 なにしろ自分は身分を偽り、王の前ではとても口に出せない行いをしようとしているのだ。

「恐れ多いことです……」

 ここで断れば不自然に思われる。

 かといって素直にはいと言えなくて、ティナーシェの口調は歯切れが悪かった。

(苦しい……カーティスさまを騙しているという事実が。もっと、別の形で出会えていたら――)

「少し元気が無いみたいだ。なおさら君を連れて行かないとな。きっと元気になれる。私の保証付きだ」

 カーティスに自信たっぷりに言われると、自分でもそんな気分になってティナーシェは小さく笑った。

「元気じゃないわけではありませんが、カーティスさまにそこまで言わせるなんて、とても素敵な温室なんですね」

「ああ、大いに期待するといい。私が手塩にかけて育てた子たちが待っている、行こう」
「はい、カーティスさま」

 二人は部屋を出で温室に向かう。白い回廊を数分歩き、これまで来たことのない城の奥へ入っていく。

「あ……」

 前方を見ていたティナーシェが小さく声を漏らした。なぜなら行き止まりだったからだ。

 しかしカーティスは気にせずそのまま突き進む。

 突き当りまで来ると、懐から鍵を取り出す。

 後ろからはよく見えないが、鍵穴がありガチャガチャと音がして、突き当りの壁が扉のように開いた。

 いや、壁に見せかけた扉がそこにはあった。

 ティナーシェの様子にくすりと笑うと、カーティスはおいでと手を差し出す。

 ティナーシェは「失礼します」と一言添えて、自分の手を重ねた。

 扉の向こうには背の低い芝生で覆われており、すぐ手前を小川が流れ、小さな橋がかかっている。

 カーティスに手を引かれ橋を渡った先に温室があった。

 ガラス張りの温室は光を反射してキラキラと輝いている。

 温室であるのに、外観は小さな宮殿といった様子だ。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~