★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

王からのお願い4

各話表紙

 悶々と悩んでいる間に、すっかり身支度が整っていた。

 朝食が済んだタイミングで、大臣のヴァイスが部屋まで迎えに来た。

 ティナーシェは昨日返しそびれたロイヤルブルーのストールを手に取り、部屋を出た。

「本当に迎えに来てくださったんですね」
「当然です。さ、陛下が自室でお待ちです。行きましょう」

 ヴァイスの案内でカーティスの私室までやってくると、彼はバルコニーから景色を眺めていた。

「陛下、ティナーシェさまをお連れしました」
「ああ、ご苦労だったな、ヴァイス」

 カーティスの言葉にヴァイスは軽く頭を下げた。

「よくきたな、ティナーシェ。おはよう」
「おはようございます、カーティスさま……あの、まだ名前で呼ばなくてはいけないのでしょうか?」

 ずっとティナーシェの中で気になっていたことだった。

 王自ら名前で呼ぶように言われたが、ティナーシェはずっと恐れ多くて、陛下と呼びたいと思っていた。

「なんだ、慣れたと思ったのに、まだ遠慮しているのか。なら余計ダメだ。私が満足するまで続けてもらう」
「わかり、ました」

 ティナーシェはしゅんとした。ただ敬意を表したいだけなのに、却下されてしまったからだ。

 それとは対象的にカーティスは楽しそうだ。

「そんな顔をするな。まるで私が加害者のようじゃないか」

「ですが、陛下は陛下ですし、大臣のヴァイスさまですら陛下とお呼びになっているのに……よそ者のわたしごときが陛下の名を口にすること自体、皆さんいい気はしないと思うんです」

 ティナーシェはいたたまれなくなり、身を縮こまらせる。

「では聞くが、そのことで誰か君に文句を言ってきたのか?」
「いえ……」

「そうだろう。あのお茶会にはこの国の重鎮ばかりを招待していたんだ。その彼らの前で、私がわざわざ許可したんだぞ。文句が出るはずもない」

 カーティスの言葉にティナーシェは目を丸くする。

 まさかそんな大物ばかりが、あのお茶会の席にいたとは思いもしなかったからだ。

「要するに、ティナーシェさまに文句を言う輩がいるということは、彼らの監督不行き届きということです」

 絶妙のタイミングでヴァイスが解説を入れた。

 カーティスの用意周到さにティナーシェはすぐに言葉が出てこない。さすがに一国の主であるだけに馬鹿ではない。

 そんな相手を自分が暗殺することなどできるのだろうかと、ティナーシェは弱気になった。

(いくら色仕掛けで心を掴んだとしても、ううん、わたしなんかが誘惑しても簡単になびくような人じゃないんだ……どうしよう)

「また、泣きそうな顔をしている。もしかして体調がよくないのか? 横になるか?」

 たびたびティナーシェが泣きそうだったり、涙を流したのを見たことがあるだけに、カーティスは穏やかに問いかけた。

 その気遣いは嬉しいが、公爵令嬢としてのティナーシェに向けられたものだと思うと、なぜかティナーシェは胸がちくりと痛んだ。

「いいえ。体調も普通ですし……あ、昨日はありがとうございました」

 今までずっ持っていたことにやっと気づいたティナーシェは、ロイヤルブルーのストールをおずおずとカーティスに差し出す。

「ああ、そういえば君にかけておいたんだった。風邪も引いてないみたいで安心した」

 カーティスはティナーシェから受け取ったストールを、近くのテーブルの上にそっと置いた。

 ふわりと春の木漏れ日のような笑みをカーティスに向けられ、ティナーシェは鼓動が小さく跳ねた。

(王さまの笑顔って安心するだけじゃなくて、なんだかくすぐったい感じがする)

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~