★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

王からのお願い3

各話表紙

「はい、たしかにお預かりしました」

 ティナーシェとエリザは微笑み合う。気が合う二人はこの一週間で、友達のように打ち解けていた。

 その様子を見物していたほかの使用人から声が上がる。

「二人共すごく仲がいいんだな、エリザ?」

 初老のベテランであろう使用人がエリザに話しかけた。

「そうよ、羨ましい? 綺麗でやさしいティナーシェさまの侍女の座は譲らないわよ?」
「ほんとにおまえは入ったときから口が減らねえな」
「うふふ。あなたたち二人もとても仲良しなんですね」

 エリザとベテラン使用人のやり取りに心が和み、ティナーシェはくすりと笑った。

「冗談やめてくださいよ! 誰がこんな口うるさいジジイ……」
「誰がジジイだ、ひよっこめ」
「親子みたいだわ」

 とティナーシェが話せば、

「冗談じゃないっ!」

 と二人の声がハモった。

 そして休憩室が笑いのるつぼと化したのだった。ひとしきり笑うとティナーシェは一同に別れを告げ、自室に戻った。

 それから夕食、湯浴みと済ませ穏やかな眠りについた。

 夜が明け、山の天辺から朝日が顔をだす頃、小鳥のさえずりがはじまる。

 生命が新たに生まれ、清らかな世界が広がっているような、そんな朝だ。

 やはり侍女としての習慣で、今日も早く目覚めたティナーシェは、窓を開け新鮮な空気を味わっていた。

 早朝とあって、薄衣のネグリジェだけではやはり肌寒い。

 しかしその肌寒さも心地よいのも事実だ。

「罪を犯そうとしているわたしにも……こんなに清々しい朝が訪れるのね……」

 諦めか、罪悪感からか、ティナーシェは儚い笑みを浮かべた。

 まるで溶ける直前の雪の結晶のような笑みだ。

 ひどく悲しげであるのに、そこにもろく壊れてしまいそうな美しさも同居している。

 一流の画家であれば、この瞬間を絵として残したいと思ったことだろう。

 明るい水色の髪も相まって、今ここに誰かいたとしたら、ティナーシェは雪の精霊に見えたに違いない。

 しかしすぐにこの場の静謐な空気はかき消された。

 扉を叩く音がして、侍女のエリザがやってきたからだ。

「おはようございます、ティナーシェさま」
「おはようございます、エリザさん。今日もよろしくお願いします」
「はい! なんなりとお任せください!」

 ティナーシェに頼られることが嬉しいのか、エリザはそれはもう嬉しそうに返事をした。

「あなたを見ていると、とても元気がでます」
「そうですか? まあそれくらいしか取り柄がないといいますか」

 ティナーシェが化粧台の前に座ると、慣れた様子でエリザが髪を梳かしはじめる。

「そんなことありません。どれだけ心を明るくしてもらっていることか……ありがとう」

 面と向かっていうのは恥ずかしかったが、エリザといると沈んだ気持ちが少し浮上するのだ。

 だからティナーシェは鏡越しに微笑んだ。

「礼を言うのは私のほうです。ティナーシェさまは本当にやさしくて、ずっとティナーシェさまの侍女でいられたらいいなって思っています。行儀見習いなんて言わないで、このまま陛下のお嫁さんになればいいのに……」

「な、なんてこと言うの!? わたしなんか論外ですっ」

 思ってもいないエリザの言葉に、ティナーシェは心底驚いた。

 なにしろ自分は本来エリザと同じ立場なのだ。侍女なのだ。

「いえ、無理なのはわかってるんです。でもティナーシェさまだったらって。陛下も気に入られてるみたいですし」

「そんなことは……」

(わたしがとろいせいもあるけれど、未だに手を繋いだことしかないし……キスするような仲にまで発展できるなんて思えない……)

 しかも王女の手紙の文面から受け取った印象では、キスより先……体の関係まで進めることが必須であるかのような書き方だった。

 王の心を掴むために、多少の色仕掛けも実行しろと書いてあったのだ。

(ずっと奥手で男の人と付き合ったこともないわたしに、色仕掛けなんてハードルが高すぎるわ。なにより、わたしは誰かを傷つけるなんてしたくない……)

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~