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第二章 親密になりたいけれど

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

◆王からのお願い

 ティナーシェは焦っていた。

 王女からの手紙には最短で王と親しくなれと書いてあるのに、一週間目の今日に至っても手を繋いだことしかない。

 自分ひとりの力では、これ以上、王と親密になることなど無理だと逃げ出したくなっていた。

 自室の机の引き出しに入っている手紙を見つめ、落胆する。

(どうしよう。どうしたらいいの? 王さまと親密になるなんて、そんな大それたことわたしにはとても……)

 だが、この計画を実行しない限り、弟のラーダの身の安全は保証されないのだ。

 かといってなんの恨みもない王を手にかけることも気が進まない。

 ザールワースに来てからというもの、さらに国王カーティスを殺したくないとティナーシェは思いはじめていた。

(せめて王さまが最低の王だったらよかったのに。そしたらきっと、今よりずっと楽に躊躇うことなく命を奪うことができた……)

 なにしろティナーシェと会うたびに、カーティスは「困ってないか?」「つらくないか?」とわざわざ声をかけてくるのだ。

 ティナーシェが自分の命を狙っているとも知らずに。

 そしてこれがティナーシェの罪悪感をますます増幅させていく。

 それは現在進行系で進んでおり、目の前の命の天秤をどうすべきか、日々ティナーシェを悩ませるのだ。

(いっそこのまま死んでしまえたら楽なのに――)

 自分が死を選ぶことは、王女からの『お願い』の失敗を意味し、ラーダの命も消えるということだ。
 ティナーシェには自ら死ぬという選択肢さえ与えられていない。

(もうわたしには、逃げ場所さえないんだ)

 ティナーシェは机に突っ伏した。もう顔を上げる気力すらない。

(今日の講義が全部終わっててよかった……夕食までこうしていよう)

 力なく閉じたティナーシェの眦から、涙が一筋伝い落ちた。

 次にティナーシェが目覚めると、窓から金色の光が差し込んでいた。どうやら夕方らしい。

 身を起こそうとして、ティナーシェは自分の肩にかけられたストールに気づく。

 ロイヤルブルーの肌触りのよい布地で、普段自分が使っているものより一回り大きい。男性物らしかった。

 ずり落ちかけたストールを押さえながら窓のほうを見ていると、背後から声がかかる。

「起きたな、ティナーシェ」

 聞き覚えのある声に、ティナーシェは一瞬体を強張らせた。ゆっくりと振り向けば、想像通りカーティスがいた。

「陛下……カーティスさま……」

 どうして彼がここにいるのか理解できず、ティナーシェは困惑する。

「無断で入ってすまない。直接自分の口で伝えたいことがあったんでな」
「もしかして、わたしが起きるまでずっと待っていらっしゃったんですか?」

 ティナーシェは一瞬青ざめた。
 下手をすれば一時間以上、王を待たせてしまったことになる。

「いや、私がここに来たのは半刻ほど前だ。大して待っていない」
「申し訳ありません。起こしてくださればよかったんです」

 ティナーシェがそう話すと、カーティスは苦笑する。

「常に泣きそうで張り詰めた様子の君を無理に起こそうだなんて、そんな鬼畜なことはしない」
「わ、笑っているときもありますっ!」

 そんなに普段から自分が情けない顔をしているのかと恥ずかしくなり、ティナーシェは声を荒くしてしまう。

「強がっても無駄だぞ。寝言で泣きながら弟の名を呼んでいた」
「よ、呼んでません」
「ラーダ、というんだな」
「……っ」

 こうまで言われては、ティナーシェは口を噤むしかない。

「それはさておき、私がここまで来たのは君にお願いをするためだ」
「お願い……」

 その言葉を耳にしたティナーシェの脳裏に、王女の言葉が浮かぶ。

 ――ねえ、ティナーシェ。私の『お願い』きいてくれるわよね?

 無理難題を突きつけられ、心が握りつぶされたように苦しくなったのを思い出してしまう。

 この王は一体自分にどんなお願いをする気なのか。

 もうあんな思いはしたくないと、ティナーシェは身構えた。

「君には私の身の回りの世話を手伝ってほしい」
「……え?」

 予想外のお願いにティナーシェは思わず気が抜けてしまった。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~