庭での出来事3

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

「ありがとうございます。助けていただいたばかりでなく、わたしへの気遣いまで……」

(なんて素敵な人なんだろう。王さまなのにちっとも威張ってなくて、思いやりもあって……こんな大人になりたいって思うわ)

「そうかしこまる必要はない。公の場でないときはもう少し肩の力を抜け」
「陛下の前でそんなことはできません!」
「そしてまたグラス一杯の葡萄酒だけで倒れるのか?」
「なっ……!」

(一番触れてほしくないところに……自分が悪いのはわかってるけど、ブレイユ国のイメージを悪くしてたらどうしよう……)

 ティナーシェは情けないやら恥ずかしいやらで真っ赤になった。

「責めているのではない。なぜかな、君はひどく無理をしているように見える」
「そんなことは……」

 自分の本来の役割を思い出し、ティナーシェの心が沈む。

 弟を生かすためには、目の前の王を殺さなくてはならない。

「私が今まで見てきた行儀見習いの女性たちは、皆希望に満ちて目をキラキラさせていた。ここで行儀見習いをすると素晴らしい結婚相手を見つけられるからだ。王家で修行したという箔が付くからな」

「はあ……」

 さして結婚に興味のないティナーシェは、少し気の抜けた返事をしてしまった。

「ほら、君はこういうことにほとんど興味がない。本意でここに来たわけではないということだ。だとしたら君の意図はなんだろう?」

「意図……?」
「ピンとこないなら言い直そう。思惑とか、企み、私に近づく主旨だ。君の狙いはなんだ?」

 淡い青紫の瞳に覗き込まれ、ティナーシェの心が激しく波打つ。

 このままずっと見つめ続けられていては、本心を読み取られてしまいそうな恐怖を感じた。

(ダメ! 気取られてはダメ! ラーダを助けなくちゃいけないんだから! なにか……なにか王さまの気を逸らせることはない!?)

 中々よい言い訳が見つからず、じわじわと目の端に涙がにじみはじめた頃、ティナーシェの頭にこれ以上はないというくらいのアイデアが浮かんだ。

 これだ! と思った彼女は自信満々に言い放つ。

「わたしは陛下と結婚したいんです! だから少しでも近づきたくて無理に行儀見習いにしてもらったんです!」

 ティナーシェ渾身の告白に、カーティスは絶句する。

 それから、小刻みに肩が揺れはじめ、我慢しきれなくなった彼は声を上げて笑いだした。

「どうして笑うんですか!」
「いや、申し訳ない……っ、まさか、そうくるとは……っ」

 ティナーシェに答えつつもカーティスの笑いは収まらない。

 それでも必死に笑いを噛み殺しているようで、目尻に涙がにじんでいる。

(なによ、そんなに笑うことないじゃない……なにがそんなにおかしいのかしら)

 あまりにも楽しげに笑うカーティスに、ティナーシェは不満が溜まる。

 ひとしきり笑ったカーティスは目尻を指で拭った。

「こんなに笑ったのは久しぶりだ、ありがとうティナーシェ」
「こんなことでお礼をいわれても、ちっとも嬉しくありません」

 たしかに不満もあるし、口ではそう言ったものの、内心ティナーシェは不思議と不快ではないと感じる自分に気づいていた。

「そういえば、この庭にいたとおっしゃってましたが、どちらにいらしたんですか? わたし以外誰も見かけませんでしたが」

「だろうな。私がいたのはあそこだ」

 そう言ってカーティスが指さしたのは、ティナーシェが蜂と出会った四阿の傍の大きな樹だった。

「えっ、木の上にいたんですか?」
「そうだ。王さまらしくないだろう?」
「はい……い、いえ、滅相もございません」

 思わずはいと言ってしまい、ティナーシェは慌てて訂正した。

「無理に嘘をつくな。自覚している。昔はしつこく大臣に注意されたものだ。そのうち根負けしたのか口を出さなくなった」

「まあ……」

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~