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庭での出来事

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~


◆庭での出来事

 次にティナーシェが目を覚ましたのは、翌日の昼だった。

 眠っている間に誰かが運んでくれたらしく、きちんとベッドに横たわっている。

(ああ、わたしったら来て早々なんて失態を……)

 ティナーシェは気まずい思いでのろのろと上半身を起こす。

 わずかに頭が痛い気がする。

 自分がお酒に弱いことは自覚していたが、グラス一杯分しか飲んでいなかったはずだ。

(きっと慣れない場所と環境で体に負担がかかったんだわ……それに――)

 ザールワースに行儀見習いとして侵入し王を暗殺することが目的なのだ。

 ティナーシェの心が晴れるはずもない。

 ずっとどんよりと曇った冬の鉛色の空が心の中に広がっている。

 それは重く、冷たく、寂しいものだ。

「ティナーシェさま、起きてらしたんですね。おはようございます」
「エリザさん、おはようございます」

 ティナーシェが気落ちしていると、ちょうど着替えを用意したエリザが寝室に入ってきた。

「ティナーシェさま、もう少し眠っていても大丈夫ですよ。本当は起きる前にすべての準備を終わらせるはずだったんですから」

「そうなんですか? つい、いつものくせで早起きしてしまったようです」

 ティナーシェはベッドから窓際に移動し、そっと白レースのカーテンを開けた。

 快晴の空に朝日が眩しく輝き、室内を昼間のように明るく照らす。

「いいお天気ですね。洗濯物がよく乾きそうです!」

 エリザは十六歳らしい無垢な笑顔をみせた。

「そうですね」

 それにつられてティナーシェも微笑んだ。

 束の間とはいえ重苦しい心が軽くなったからだ。

 身支度を済ませたティナーシェは、朝食までまだ時間があるとエリザに言われたので、部屋の近くの庭を散策することにした。

 部屋から出て数分歩くと見事な庭が現れた。

 綺麗に切りそろえられた背の高い植木や、季節の花が区分けされて植えられている。

 壁沿いに白や淡い青紫、ピンクの背の高い花が並び、下には背の低い青々とした葉が広がる。

 庭の入口は薔薇のアーチで門が飾られ、くぐって中に入るとまるでおとぎの国に来たようだ。

 女性なら誰もが心ときめくような、メルヘンで可愛い庭が目の前に広がっている。

「……お城の中にこんな可愛い庭があるなんて。妖精さんが出てきそう」

 足元の芝生もやわらかく、靴を通して感じる感触が心地よい。

 少し離れた正面には円形の噴水があり、中心の女神像の壺から水が流れている。

 たびたび日光を反射して輝くさまは、まるで水の精霊が喜んでいるようだ。

 さくさくとやわらかな芝生を踏みながら歩いていくと、所々に白塗りの木のベンチが置いてある。
 ただ置いてあるだけではない。

 ちょうど一休みしたかったり、そこに座ると庭が一番美しく見えるポイントに設置されているのだ。

(このメルヘンな庭を作った人は天才ね。この場にあるすべてのものが、ここに来た人にとって最高に素敵な時間を過ごせるように考え抜かれているんだわ)

 やがてティナーシェは庭の中央にある四阿あずまやについた。

 人が四人ほど座れる椅子とテーブルが設置されている。

「ああ……なんて素敵……」

 無意識に感嘆の声が漏れる。ティナーシェが腰を下ろした視界の先には、見事な庭が広がっている。

 ここから眺めるのが一番美しいのだ。

 四阿の横にはこの庭の中で一番大きな木が生えている。

 しっかりとした太い幹は力強い生命力を感じさせた。

 ティナーシェはこの夢のような空間に、うっとりと浸りきる。

 風が枝を揺らす音や、その風に乗ってくる花々の香り――それらはティナーシェをずっとここに居続けたいと思わせるほどだ。

 すっかり庭の素晴らしさに陶酔していると、ティナーシェの視界を黒い塊がふっと掠めた。

 なんだろうと現実に意識を戻すと、自分の傍を一匹の蜂が飛んでいた。

「――っ!」

 ティナーシェは驚きと恐怖で息を呑む。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~