★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

看病2

各話表紙

 羞恥は極限まで達し、とにかくなにか言わなくてはとティナーシェは口を動かした。

「んん……っ」

 しかし、自分の予想とは裏腹に、なんとも悩ましげな喘ぎだけが漏れた。

 そのことでさらにティナーシェはいたたまれなくなり、なんとかしてほしいと潤んだ瞳でカーティスに訴えた。

 するとカーティスはゆっくりと顔を近づけてきた。

「私以外の男にその顔を見せてはいけない」

 睦言をささやくように言われると、もう駄目だった。

 ティナーシェは脳が蕩けるような感覚に抗えない。

 過分に甘さを含む艷やかなカーティスの声に完全に酔ってしまった。

 元々体に力は入らなかったが、さらに脱力し自然と口が開いた。

 火照った体から熱い吐息が漏れる。

 視線も逸らすことができずにぼうっと見つめていると、カーティスが至近距離まで顔を寄せてきた。

 理知的な光を湛えた切れ長の瞳に自分が映り込んでいるのがわかる。

 ふに、とやわらかな感触がしたかと思うと、一瞬で離れてしまった。

 その直後、医務室の扉を軽く叩く音がしてヴァイスがやってきた。

「ああ、陛下。やはりこちらにいらっしゃいましたか」
「吐いたのか?」

 開口一番ヴァイスに向けてそう話すカーティスは、すでにいつもの彼に戻っていた。

 先程の艷やかな雰囲気は見事に霧散している。

「いえ、残念ながら。ですがあの矢に使われている羽は間違いなくブレイユ国のものです。送り込まれた刺客は皆ブレイユ国特有の訛りが強く、王女が寄こした者に間違いありません」

「そうか。ならティナーシェが動けるようになったら、王女に会いに行く」

「わかりました。ブレイユ国王にはお会いにならなくてよろしいのですか?」

「王女の件が済んだら、挨拶がてら会っていこう。頼みたいこともあるしな」
「ではそのように」

 カーティスとの会話を終えたヴァイスが、ティナーシェに視線を移す。

「ティナーシェさま、気がつかれたのですね。あなたが眠っている間、陛下は大変心配なさって時間ができるたびにここに立ち寄っていましたよ」

「本当ですか?」

 カーティスとヴァイスが会話をする間に、すっかり落ち着いたティナーシェだ。

「ええ、個人的には立ち寄り過ぎかと思うくらいに」
「余計なことを……」

 ヴァイスの言葉にカーティスは居心地が悪そうだ。

 少しばかり気分を害するカーティスとは逆に、ティナーシェは嬉しいと思った。

 決して暇なわけではないカーティスが、頻繁に自分の様子を見に来てくれたのかと思うと嬉しくてたまらない。

「ありがとうございます、カーティスさま」

 先程のことが思い出され、ティナーシェは恥ずかしそうに礼を述べた。

「……礼を言うのは私の方だ。君は命の恩人だ。感謝どころの話じゃない。私はその恩に最大に報いよう」

 カーティスはその場に跪き、ティナーシェの手を取るとその甲に恭しく口づけた。

 それは命の危機を救ってくれたティナーシェへの敬意の表れだ。

 その様子を見たヴァイスは信じられないというふうに、自分の主を見つめている。

 これまで彼がこのように膝をつくのを見たことがなかったからだ。

「そんな、おおげさです……」

 先程自分の唇に触れたのと同じものが手の甲に触れたと思うと、恥ずかしさが込み上げてきてティナーシェは頬を赤らめた。

「おおげさなものか。誰にでもできることじゃない。武器も持たず丸腰でありながら……君は勇気があるんだな」

「勇気なんてありません。私は優柔不断で、弱くて……でも、カーティスさまをお助けできたことは人生最大の誇りです」

 ティナーシェが微笑むと、カーティスも微笑み返す。

「ご歓談中に申し訳ありませんが、そろそろ謁見の時間です、陛下」

 懐中時計を見ながらヴァイスが告げた。

「そうか。用事が済んだらまた来る」

 カーティスは王の顔に戻ると、すっと立ち上がりヴァイスとともに医務室をあとにした。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~