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銀のナイフ5

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

 ティナーシェも微笑み返し、先にカーティスに手渡された本を開く。

「孤独な王女と炎の欠片。あるところに、とても美しい王女がいました。美しいドレスに身を包み、沢山の美しい装飾品を身につけていました。だけど王女様は孤独でした」

「不思議だな。君の声はいくら聞いても飽きがこない」
「あ、ありがとうございます……」

 カーティスに褒められ、ティナーシェは頬を淡く染めた。

 案の定二十分ほど読んだところで、王は眠りに落ちたようだ。

 規則正しい寝息も確認できた。

「……」

 ひどく気は進まないがこの機会を逃すわけにはいかない。

 ティナーシェは左腕から銀のナイフを引き抜き、両手で握ると頭の上に高く掲げる。

 辺りはしんと静まり返り、物音一つしない。

 自分の鼓動だけがドクンドクンと脈打つのがわかる。

 あまりにも事がスムーズに運びすぎて怖い気さえする。

「……っ、はぁ……ぁ……」

 極度の緊張で胸が苦しくなる。

 せっかく頭上に掲げた両手も小刻みに震えてしまう。

 今度こそ本当に、何者にも邪魔されず王を屠ることができるのだ。

「はあ、はあ、はあ……」

 ティナーシェの呼吸が苦しさを増す。

 激しい葛藤にティナーシェの表情が歪む。

 病弱で大切な家族である弟のラーダと、目の前の好きな人。

 二つの選択肢を前にティナーシェの心が激しく揺さぶられる。

(王さまを殺したらラーダは助かる。だけど、わたしは一生人殺しの烙印を背負っていかなきゃいけないんだ……そしてもし、このことがバレたらラーダはわたしを軽蔑する。それでもわたしは……)

 ティナーシェは深呼吸すると、一気に銀のナイフを王の心臓めがけて振り下ろす。

 いや、正確には振り下ろそうとした。

 繰り返し腕を振り下ろすが、心臓の手前で腕を止めてしまう。

 同じ動作を十回は繰り返しただろうか、とうとうティナーシェは銀のナイフをぽとりとベッドに落としてしまった。

 落とした銀のナイフは、カーティスの枕元に弾んで止まった。

(だめだ、殺せない……殺せるわけがない。人を殺すなんて……誰かを殺すなんて……好きな人を手にかけるなんてできない……!)

「う……っ、ふ……っ……」

 八方塞がり。

 これ以上どうしていいかわからない。

 そんな絶望感がティナーシェに涙を流させる。

 どちらかを生かせばどちらかが死に、両方助けたくともその術がない。

 その上、自分はこの国では一人ぼっちだ。

 協力者なんていない。

 身も心も押し潰されそうで、ティナーシェは鳴き声すら上げられない。

 喉の奥が焼けるように痛くて、声が出ない。

 その変わりに大粒の涙が次々と澄んだ瞳からこぼれ落ちる。

 ザールワースの城に来てから、ずっとカーティスの命を狙ってきたティナーシェの緊張は限界だった。

 そして彼女は泣きながらその場に崩れ落ち、ベッドの端に寄りかかるようにして意識を手放したのだった。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~