Oops! It appears that you have disabled your Javascript. In order for you to see this page as it is meant to appear, we ask that you please re-enable your Javascript!

銀のナイフ4

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

 釈然としない思いに駆られながら読み進めること二十分、膝上の王はすやすやと寝息を立てている。

 その寝顔を見ようと、ティナーシェは本を閉じ地面の上に置いた。

 以前見たときと同じ、綺麗な寝顔だ。

 すっと通った鼻筋に程よく引き締まった唇。

 肌艶もよく、服の隙間からちらりと見える首筋は妙な色気を漂わす。

 今は閉じていて見えないが、灰色がかった青紫の淡い瞳は理知的な光を宿す。

(本当に綺麗な人……こんなに大きな国を立派に統治してる人。そんな人を、一国の王を……わたしは殺さなきゃいけないんだ……。……いやだな)

 自然と右手が左手に装着している銀のナイフに、服の上から触れる。

 王が眠っている今なら絶好のチャンスだ。

「……」

 ティナーシェはそっと銀のナイフを引き抜いた。

 刀身が太陽の光を反射して眩しく光る。

 細身だが美しい細工の施されたナイフだ。

「ん……」

 そのときカーティスが小さく寝返りを打った。

 顔の向きが変わり、ティナーシェのお腹に埋まるような体勢になる。

「きゃっ」

 驚いたティナーシェは銀のナイフを地面に落としてしまった。

 慌てて拾うと、そのまま左腕にしまった。

 今ので完全に気を削がれてしまったのだ。

「……難しいわ……」

 呟きながらも、ティナーシェの胸の鼓動はどんどん加速していき、中々収まらない。

 顔に血液が集まり熱くてたまらない。

(早くどいてほしいけど、もう少しこのままでいたい気もするし……傍にいると王さまいい匂いがするし、どうしたらいいの……)

「……好き……」

 ポロリと口からこぼれ出てしまった。

 通常であれば伝えることすら叶わない二文字だ。

 無意識に呟いたので本人も気づいていない。

(好きになっても報われないのはわかっているのに……傍にいると、どんどん好きになってしまう。王さまが笑いかけてくれるたびに、すごく幸せで……だけどそれはわたしが公爵令嬢だからで――純粋にわたしに向けられた感情じゃない……。どうして王さまと普通に話せる家系に生まれなかったんだろう。同じ国に生まれなかったんだろう。胸が、痛いよ……)

 カーティスを見つめるティナーシェの瞳に涙がにじみ、やわらかな頬を伝う。

 それはそのままカーティスの頬にポタリと落ちた。

「あ……」

 それに気づいたティナーシェは慌てて拭こうとしたが、ハンカチがないことに気づき、恐れ多いと思いながら指先でそっと涙を拭き取った。

 ついでに自分の涙も手の甲で拭う。

 涙を拭ったティナーシェが顔をあげると、木々の間から差し込んだ幾筋もの日光が光の帯のように差し込み、湖を明るく照らした。

 その光景はあまりにも美しく、まるで湖が天から祝福を受けているようだった。

(なんて神々しいんだろう……眩しすぎて、逆につらい……わたしはもう、堕ちていくしかないんだ……)

 それから半刻ほどしてカーティスが目覚めた。

「ずいぶん熟睡してましたね、カーティスさま」
「ああ、最高の環境だったからな。そろそろ帰るか。昼食に遅れる」
「そうですね」

 ティナーシェはもう普段の彼女に戻っていた。



 やがて夜になり、皆が寝静まる頃、ティナーシェは王に呼ばれて彼の寝室に来ていた。

 カーティスが眠るまで本を読むためだ。

「昼間もよく寝ていたようですが、わたしの朗読が必要ですか?」
「ああ、頼む。私が眠ったら帰っていいぞ」

 カーティスはくすりと笑った。そうなのだ。

 今もまだ彼が生きているということは、昼以降もティナーシェは王を仕留めることができなかったのである。

「はい、わかりました」

(きっとこれが最後のチャンスになる。王さまが完全に寝たのを確認したら、銀のナイフを突き立てる……もう、そうするしかないんだから)

 

7+
↑読了ついでにポチッと(*´ω`*)桜猫にちゅ~るが贈られます。
↑読了ついでにポチッと(*´ω`*)桜猫にちゅ~るが贈られます。
偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~