★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

銀のナイフ2

各話表紙

 ティナーシェが握りしめたナイフを高く掲げたとき、カーティスに名前を呼ばれた。

「ティナーシェ」
「……っ」

 反射的にティナーシェはナイフを左腕に戻した。
 それと同時にカーティスが振り向く。

「どうやら列を間違えいたらしい。もう一つ後ろだ」
「えっ……そ、そうですか」

(よかった、気づかれたわけじゃないみたい)

「国中から集めた童話があるからな。その量が半端なく多い。子供向けのものから大人向けまで様々だ」

「……どうしてカーティスさまは、そんなに童話がお好きなんですか? 以前、キスとハッピーエンドだからと教えてもらいましたけど、それだけではない気がします」

 すっかり怖気づいたティナーシェは、ささやかな疑問をカーティスに問いかけた。

「私が子供の頃、母がよく読んで聞かせてくれた。毎晩毎晩、飽きることなく私が眠りに落ちるまで、何度でも読み聞かせてくれた。その影響が大きいのかもしれないな」

 自分の母との思い出を話すカーティスから、とても穏やかなものを感じ取り、ティナーシェの気持ちも落ち着いてくる。

「やさしいお母さまに愛されて育ったんですね」
「ああ、母がいなければ私は王になんてならなかったかもしれない。物凄く勉強嫌いだったんだ」

「それはとても意外ですね。わたしの国ではザールワースの王は切れ者だと言われています」
「ほう、それは光栄だな」

 目的の本棚の前で、カーティスは本を物色しながら答えた。

「どうやって勉強嫌いを克服されたんですか?」

「私の勉強不足で母を危険に晒したことがあってね……それから私は必死に勉学に励んだ。だから克服したと言うよりは、そうせざるを得ない状況になったと言うべきだな」

「そうですか」

「まあ、今思い返してみれば、私が勉強するように仕向けられた気がしなくもないがな。母はあれで中々の策士だ。幼い私などころっと騙される」

「だからカーティスさまも聡明なんですね」

 ティナーシェの言葉にカーティスは小さく微笑んだ。

 ティナーシェもなにか借りようと思い、本の背表紙とにらめっこしていたが、すぐに一冊の本に目星をつけた。

 コバルトブルーの背表紙に銀の文字でタイトルが書かれていて目を引かれた。

 さっそく手に取ろうと、本棚から本を引っ張り出そうとするのだが、どうにも固くて少しも動かない。

 それでも必死に人差し指を本に引っ掛け取り出そうとしていたら、急にスルッと動いた。

 しかし、勢いづいたティナーシェは本を持ったまま後ろの本棚に背をぶつけてしまった。

 その反動で、本棚に収まっていた本たちが雪崩のように、ティナーシェめがけて落ちてくる。

「――っ」

 焦るが体を鍛えていないティナーシェには、素早く避けることなどできない。

 このまま分厚い本の下敷きになるのだと覚悟して固く目を閉じた。

 勢いづいた本はドサドサっと派手な音を立て床に落ちた。

(あれ? 痛くない?)

「世話が焼けるな、君は」
「あっ、わ、カーティスさま!?」

 声の方に目を向けると、今の自分の状態がわかった。

 迫りくる本から、カーティスが盾となり守ってくれたのだ。

 そのお陰でティナーシェは無傷だった。

「よかった、顔に傷はついてないな」
「あっ、あの、わたし……っ、ごめんなさいっ!」

(なにをやっているの、わたしったら。王さまに痛い思いさせるなんて!)

 動揺のあまりティナーシェはオロオロと立ち尽くす。

「ふふ、また泣きそうな顔をして。これでも鍛えてるんだ。君よりはるかに逞しいし、なにも問題はない」

 子猫のように怯えるティナーシェの頭を、カーティスはやさしく撫でた。

「本当に、申し訳ありません……」
「そう思うのなら、一緒に本を戻すのを手伝ってくれないか?」

 ふわりと花が開くように微笑まれ、ティナーシェは一瞬見惚れてからこくりと頷いた。

 二十冊はあるだろうか。その場にしゃがみ、次々と本を拾い集める。

 すると、すぐに目の前に手が差し出される。

 本はティナーシェより上の棚から落ちてきたものが多いので、カーティスが先に気を利かせたのだ。

 その心配りに感謝しながら、ティナーシェは次々に本をカーティスに手渡す。

 ものの数分でその場は片付いた。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~