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第三章 殺意と恋心

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

◆銀のナイフ

 ティナーシェは数週間ぶりに届いた王女からの手紙を手にしたまま、固まっていた。

 今回は手紙だけでなく、一緒に辞書も届いた。

 なぜ辞書がと、疑問に思ったティナーシェだったが、辞書を開くとすぐに理由がわかった。

 開いた辞書の中身はくり抜かれ、その真ん中にあったものは、銀のナイフだった。

 一向にティナーシェからよい返事が来ない王女が痺れを切らし、とっととこのナイフで王を仕留めろと送ってきたものだ。

 しかも今回の手紙では、さらにつらい条件が突きつけられていた。

 ――三日以内に王を手にかけなさい。さもないと弟の命はないわよ。

 そう最後の一文に記されていた。ティナーシェは生きた心地がしない。

 まだ猶予はあると思っていただけに、心に受けた衝撃が大きいのだ。

(どうしよう……あの王さまをこんなナイフだけで仕留められるなんて思えない。ううん、武器があってもわたしには荷が重すぎる……どうしたらいいの?)

 ティナーシェがそう思うのも無理がない。

 先日たまたま城内を歩いていたときに、王と騎士団長の模擬戦を見てしまったのだ。

 素人目にもわかるほど、カーティスの剣捌きは熟達していて只者ではないなにかを感じさせた。

 鋭い切り込みに、自在に繰り出される剣はまるで剣舞のように滑らかだった。

 無駄のない動きは美しく目を奪われた。

 一戦交えた直後、ティナーシェに気づいたカーティスに呼び止められ、軽く会話をした。

 そのときの会話でわかったのだが、あれでもまだ準備運動ということだった。

 きっと双方が本気で戦えばさらに凄まじいに違いない。 

 そんな類稀なる剣の才能を持った王を暗殺するなど、ど素人のティナーシェに務まるはずもない。

 だから彼女は王女の手紙を手にしたまま立ち尽くしていたのだ。

 それから、一夜が明けた。

「やるしかない……わたしはもう、あとには引けないんだ……」

 ティナーシェのペールグリーンの瞳が涙で潤む。最愛の弟を助けるためには、どうしても王を殺すしかない。

 しかし自分は彼を好きになってしまった。

(なんて馬鹿なの……そんな相手を好きになってしまうなんて……好きになってもなにもはじまらないのに。諦めるしかないのに……だけど、これ以上好きになってしまったら、きっともっとつらくなる。それなら一日でも早く行動に移さなきゃ)

 ティナーシェは辞書から銀のナイフを取り出すと、胸元でぎゅっと握りしめる。

 もう迷っている暇はない。

 数回深呼吸をしたあと、ゆっくりと目を開ける。

 それから、左腕にナイフホルダーを装着し、銀のナイフを装備した。

 そのことを考慮し、今日のドレスは手の甲まで隠れる袖が長いものを身に着けた。

 もし目ざとく見つけられたとしても、護身用のナイフと言えばいいだけだ。

 幸い今日は朝から王に呼び出されている。

 次に読む本を選びに行くのだ。ティナーシェは身支度を整えると部屋を出た。

「おはようございます、カーティスさま」
「ああ、おはよう。ティナーシェ」

 部屋ではすでにカーティスが待っていた。ちょうどモーニングコーヒーを飲み終わったところらしかった。

「ではさっそく、行こうか」
「はい」

 王の先導で二人は城内の図書館へ向かう。

 白い回廊を何度か曲がり、敷地内を横切り少し歩いた場所に、別館として図書館は建っている。

 数百年前に建てられたもので、煉瓦を積み上げらて作られた壁には緑の蔦が這い歴史を感じさせる。

 図書館内は、まだ早朝ということもあり人がおらず物音一つしない。

 ティナーシェとカーティスが歩く音が聞こえる程度だ。

 数え切れないほどの本棚が並び、本の虫なら一日中喜んで居着きたくなるような場所だ。

 ティナーシェは前を歩くカーティスの背中を見つめながら、複雑な気持ちになる。

 この若く美しい王をなんとかして仕留めなくてはならないのだ。

 二人きりの今、絶好のチャンスである。

(迷いを断ち切ったはずなのに……今すぐナイフを手にとって、王さまの背中に突き立てればいいだけなのに……)

 ティナーシェは迷いを振り払うように頭を振ると、左腕に装備した銀のナイフに手を伸ばす。

 音を立てないようにそっと鞘からナイフを引き出し、両手で柄を握りしめる。

 人生で初めて人を傷つけるという緊張から、心臓がドクドクと脈打ち額に脂汗がにじむ。

(やらなきゃ、ラーダが殺されてしまう。王さま、ごめんなさい――)

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~