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謁見2

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

 罪に問われることだけは免れたとティナーシェはほっとした。

 そのとき別の青年の声が会話に加わった。

「まったく、陛下も人が良いのか悪いのか。そんなわかりにくいフォローじゃ、鈍い人間だと一生気づきませんよ」

「――っ!」

 この青年の一言でティナーシェは理解した。

 ザールワースの王は、わざとあのような発言をしたのだと。

 無理に命じることなく、予想外の言葉を投げかけることで、ティナーシェが顔を上げざるをえない状況にしてくれたのだ。

 しかも、自分からイタズラをしかけることで、ティナーシェが後々悪く思われることさえ防いでみせた。

「なにか問題があるのか? ティナーシェといったな、そなた今ので気分を害し私が大嫌いになったか?」

「いえ、滅相もございません! 陛下の心遣いに感謝しております」

 ティナーシェは本心からそう思った。

 生まれて初めて国外へ来て、精神状態も万全とはいえず心細いところに、頭ごなしに命令などされれば恐怖しか感じなかったに違いない。

「だそうだ。なにも問題はないな?」

「はいはい、陛下がなんの損害も受けなければ俺は文句はありません。それより陛下もさっさと名乗ったらどうなんです」

 余裕たっぷりの王の態度が鼻につくのか、王の傍に控えていた青年は面倒臭そうに言った。

「私はザールワースの王、カーティスだ。行儀見習いの間、我が家と思いゆっくり過ごしていくといい」

 王の灰色がかった淡い青緑の瞳が細められた。

 濃紺の髪は左分けで右頬に前髪の一部がかかり、仄かな色気が感じられる。

 口元に淡く弧を描き笑みが浮かぶと、それはそれは美しかった。

 このときティナーシェは、初めて男性に見惚れたのだった。


 謁見が済むと、そのまま歓迎の宴をする流れになった。

(いいのかしら、王さまとこんなに簡単に同席するなんて……来たばかりなのに)

 ティナーシェがそんなことを考えていると、ザールワースの王カーティスが話しかけてくる。

「せっかくの宴だというのに、あまり楽しそうではないな?」

 中々笑顔を見せないティナーシェに気づいたカーティスに、控えめに顔を覗き込まれる。

 少なからず彼に対して負い目があるティナーシェは、すっと視線を逸らしてしまった。

「いえ……少し緊張しているのです……」

 とっさに考えた言い訳にしては上出来だと思いつつ、ティナーシェはグラスに注がれた葡萄酒を一口飲んだ。

「そうか。そういえばブレイユ国の王女から私宛に手紙が届いていてな、そなたのことをよろしく頼むと書いてあった」

 王女、という単語を耳にし一瞬ティナーシェは身を固くした。

 そのせいで、王であるカーティスへの返事が一呼吸遅れてしまう。

「そ、そうですか……」

 ティナーシェはほかに言葉が出てこなかった。

 なにしろ今、目の前にいる王を殺すように命令した張本人から手紙が届いているとは予想もしなかったからだ。

 殺したい相手にわざわざ手紙をよこす心境が、純粋なティナーシェには理解できない。

「この手紙によると、そなたミルベリーが好物だそうだな。私自ら振る舞ってやろう」
「えっ……あの、まっ……」

(食べられないことはないけど、どちらかといえば苦手だわ。なにより王さまに食べさせてもらうなんて……!)

 ティナーシェの弱い抵抗はまったく意味をなさず、目の前に喜々としてミルベリーの赤い実を差し出すカーティス。

 そこにはティナーシェの緊張を解き安心させてやりたいという王の気遣いがみてとれた。

(このままわたしがミルベリーを食べなかったら、王さまに恥をかかせてしまう……)

 せっかくの厚意を無下にするわけにはいかないと、ティナーシェは心を決めた。

「喜んで、いただきます」

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~