★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

謁見

各話表紙


◆謁見

 侍女の案内で、ティナーシェは謁見の間の扉の前までやってきた。

 扉の左右には見張りの衛兵が背筋をピンと伸ばして立っている。

「それではティナーシェさま、いってらっしゃいませ」
「はい、案内ありがとうございました」

 ティナーシェが一礼すると、見計らったように衛兵が扉を開けた。

 ティナーシェはその心遣いに感謝の意を込めて会釈してから、謁見の間に入る。

 玉座までは五十メートルほどはあろうか。

 着慣れないドレスの裾が汚れないよう、ティナーシェはドレスを摘み優雅な足取りで歩みを進める。

 視線の先には空席の玉座と、玉座の右側に青年が一人。

 そして玉座の手前五メートルの通路の左右に、槍を携えた衛兵が五人ずつ整列している。

 ティナーシェは衛兵の近くまでくると、そこで立ち止まり膝をついて頭を垂れる。

 ザールワースの王が現れるのを待つためだ。

 ティナーシェはブレイユ国で王女付きの侍女をしていたため、独学ではあるが貴族としての礼儀作法もほぼ習得していた。

 数分待っていると、その場の空気が一瞬で変化した。

 王が謁見の間に現れたのだ。近くの衛兵たちからわずかに緊張が伝わってくる。

 しかしティナーシェが感じたのは緊張感だけではない。

(権力者特有の威厳も感じるけれど、なぜかしら……なんだかとても大きな力で守られているような安心感があるのは――)

 颯爽と現れた王は無駄のない所作で玉座に腰を落ち着けた。

 その一連の動作そのものが洗練されており、芸術品のようだ。

「面を上げよ」

 自分に向けて発せられた王の声に、ティナーシェはドクンと鼓動が跳ねた。

 一気に脈が速くなり心臓が急回転する。

(わ、わたし、この人を仕留めなくちゃいけないんだ……!)

 声を聞くまでは大して動じなかったティナーシェだったが、現実として目の前に標的がいると実感したとたん急に恐ろしくなってしまったのだ。

 息をするのも苦しいほど鼓動が激しく高鳴り、ティナーシェは人生最大の圧迫感に思わず逃げ出したくなる。

 しかし、ここで逃げてしまっては弟のラーダの身が危険にさらされることになる。

(本当は人殺しなんてしたくない! だけど、目の前のこの人を仕留めないとラーダは――!)

 中々顔を上げようとしないティナーシェの様子に、周囲が軽くざわついた。

 王はしばし様子を伺っていたが、再度ティナーシェを促す言葉を口にする。

「ご令嬢、そなた頭に鳥の糞がついているぞ」
「えっ、やだっ!」

 王の意外な一言にティナーシェはパッと頭を上げた。

 それからひどく焦りながら頭を両手で触り確認する。

 一通り確認して、鳥の糞らしきものがついてないことを確認すると安堵の溜息をついた。

 なにしろ相手は一国の主だ。

 謁見するに当たり無礼があってはならない。

 そうして胸を撫で下ろすティナーシェの耳に、くすくすと笑い声が入ってくる。

 自分の行いが急に恥ずかしくなり、ティナーシェは耳まで顔を赤くした。

 可視化できるのであれば、きっと湯気が出ていたに違いない。

(だからって笑うことないじゃない!)

 恥ずかしさ半分、悔しさ半分で、ティナーシェはクスクス笑いの主を睨みつけようと相手を探すと、それは自分の正面の玉座に腰かけているザールワースの王だった。

「そなたが中々顔をあげないから、ついイタズラしてしまった」
「あ……! ご無礼をお許しください! アッシュバーグ公爵家の長女ティナーシェでございます」

(わたしったらなにをやっているの! 下手したら不敬罪に問われることだってあるのに……!)

「許す」

 ザールワースの王は気分を害した様子もなく、穏やかに告げた。

「ありがたき幸せ……」

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~